1素因数分解の一意性
今回証明する定理は図1-1です。
正の整数は素数の積で表せ、その表し方は積の順序を無視すれば1通りに限られる。
第3話で説明した、「素因数分解の一意性」と呼ばれる定理です。
1.1素因数分解の可能性の証明
まずは、「正の整数が必ず素数の積で表せる」という部分を証明しましょう。
「
」は、
個の素数の積で表せると定義することで、素数の積で表せると言えます。 このように適切に定義しておかないと、素因数分解の一意性が成り立たなくなるため、適切に定義しておきます。








素数でない数は、
より大きく
より小さい何らかの整数が割り切るため、
は
より大きく
より小さい整数

を使って「


」と表せます。












仮定より、
が素数の積で表せない「最小の数」だったため、
よりもさらに小さい

は素数の積で表せるはずです。 すると、
はそれらの素数の積で表せることになりますが、
は素数の積で表せない数だったため矛盾します。 よって、素数の積で表せない正の整数はありません。 (証明終)







1.2ベズーの補題の一部
さて次に、素因数分解の一意性を証明する準備として、図1-2の定理を証明します。
整数が互いに素ならば、
を満たす整数
が存在する。
証明しましょう。
任意の整数

に対し、



が取りうる数全体の集合を
とします。 例えば、「




」などが
の元です。 「
」や「
」も
の元です。



















このとき、
の2つの元を



とすると、任意の整数

について、「





」も
の元となります。 このことを「定理
」と呼ぶことにします。


















なぜなら、「








」「








」とすると、「





































































」が成り立ち、「



」の形になるからです。
































































































ここで
の元のうち、
より大きい最小の整数を
とします。



このとき、
の元の中に
の倍数でない
が存在したと仮定します。 すると、第3話で説明した割り算の「商」と「余り」を使って、「




(



)」で表せます。
を
で割った商を
として、余りを
としています。 式を変形して「




」とすると、仮定より
は
の元であり、定理
より
も
の元ですので、定理
により「
」(



)も
の元になります。






































しかし、



である整数
が
の元であることは、
が「
の元のうち
より大きい最小の整数」としていたことと矛盾します。 よって背理法により、
の元の中に
の倍数でない数は存在せず、よって
の元はすべて
の倍数でなければなりません。














前述の通り

はそれぞれ
の元なので、

はそれぞれ
の倍数になりますが、

は互いに素なため、これを満たすには

でなければならず、従って
は
の元です。 つまり「
」は



が取りうる数です。






















よって、





を満たす整数

が存在します。 (証明終)










1.3ユークリッドの補題
次に、もう一つ準備として、図1-3の定理を証明します。
素数が2つの整数
の積
を割り切るならば、
は
か
の少なくとも1つを割り切る。
証明しましょう。







素数
が
を割り切らない場合、割り切らないということは
と
は互いに素なので、先ほどの証明より、





となる整数

が存在します。














両辺に
を掛けて、







とします。 ここで左辺を見ると、
は
を割り切るため、

は
の倍数です。 また明らかに

も
の倍数です。 よって、
の倍数同士を足した左辺は
の倍数であるため、右辺の
も
の倍数です。

























従って、
が
を割り切るため、
は
か
の少なくとも1つを割り切ることが分かります。 (証明終)





1.4ユークリッドの補題の拡張
ちなみに、今証明したことを拡張して、図1-4が導出できます。
素数が、いくつかの整数
の積「
」を割り切るならば、
は
の少なくとも1つを割り切る。
証明しましょう。




















ここで
が「
」を割り切らない場合、「





」を割り切ることになるので、同様に、
は「
」か「





」の少なくとも1つを割り切ることになります。




















これを

回繰り返すと最終的に、
は「











」の少なくとも1つを割り切ることになります。 (証明終)

















1.5素因数分解の一意性の証明
最後に、いよいよ、「正の整数は素数の積で表せ、その表し方は積の順序を無視すれば1通りに限られる」ことを証明します。
「正の整数は素数の積で表せる」ことは、既に証明しました。 残りの「その表し方は積の順序を無視すれば1通りに限られる」ことを証明しましょう。
まず、ある正の整数を、「







」と「







」の2通りに素数の積で表せたとします。
のほうが
より多い場合には立場を入れ替えて、

となるようにしておきます。























このとき、「

















」ですので、「







」の約数である
は、「







」の約数でもあるため、「







」を割り切ります。 よって先ほどの証明により、
は「










」のうち少なくとも1つを割り切ります。
































































































「

















」の両辺を
(

)で割ると、「













」となります。 以上を
回繰り返すことで、

















が得られます。



























































ここで

と仮定すると、最終的に両辺は、
(

)で割って、「











」となりますが、これは「









」が
より大きいため成り立たず、よって

ではありません。 つまり、

となります。







































従って、「







」と「







」は同じ素数の積となるため、「正の整数は素数の積で表せ、その表し方は積の順序を無視すれば1通りに限られる」ことが成り立ちます。 (証明終)

















