2024年12月22日くいなちゃん


本記事は「くいなちゃん数学」基本編の補足資料です。 素因数分解の一意性を証明します。

1素因数分解の一意性

今回証明する定理は図1-1です。

正の整数は素数の積で表せ、その表し方は積の順序を無視すれば1通りに限られる。


図1-1: 素因数分解の一意性
第3話で説明した、「素因数分解そいんすうぶんかい一意性いちいせい」と呼ばれる定理です。

1.1素因数分解の可能性の証明



まずは、「正の整数が必ず素数の積で表せる」という部分を証明しましょう。
」は、個の素数の積で表せると定義することで、素数の積で表せると言えます。 このように適切に定義しておかないと、素因数分解の一意性が成り立たなくなるため、適切に定義しておきます。
以上の整数については、背理法を使います。 以上の整数のうち、素数の積で表せない数があると仮定し、そのうち最小の数をとします。 が素数だとすると、「」のように素数の積で表せてしまうため、は素数ではありません。
素数でない数は、より大きくより小さい何らかの整数が割り切るため、より大きくより小さい整数を使って「」と表せます。
仮定より、が素数の積で表せない「最小の数」だったため、よりもさらに小さいは素数の積で表せるはずです。 すると、はそれらの素数の積で表せることになりますが、は素数の積で表せない数だったため矛盾します。 よって、素数の積で表せない正の整数はありません。 (証明終)

1.2ベズーの補題の一部



さて次に、素因数分解の一意性を証明する準備として、図1-2の定理を証明します。

整数が互いに素ならば、を満たす整数が存在する。


図1-2: ベズーの補題の一部
証明しましょう。
任意の整数に対し、が取りうる数全体の集合とします。 例えば、「」などがの元です。 「」や「」もの元です。
このとき、の2つの元をとすると、任意の整数について、「」もの元となります。 このことを「定理」と呼ぶことにします。
なぜなら、「」「」とすると、「」が成り立ち、「」の形になるからです。
ここでの元のうち、より大きい最小の整数とします。
このとき、の元の中にの倍数でないが存在したと仮定します。 すると、第3話で説明した割り算の「商」と「余り」を使って、「 ()」で表せます。 で割った商をとして、余りをとしています。 式を変形して「」とすると、仮定よりの元であり、定理よりの元ですので、定理により「」()もの元になります。
しかし、である整数の元であることは、が「の元のうちより大きい最小の整数」としていたことと矛盾します。 よって背理法により、の元の中にの倍数でない数は存在せず、よっての元はすべての倍数でなければなりません。
前述の通りはそれぞれの元なので、はそれぞれの倍数になりますが、は互いに素なため、これを満たすにはでなければならず、従っての元です。 つまり「」はが取りうる数です。
よって、を満たす整数が存在します。 (証明終)

1.3ユークリッドの補題



次に、もう一つ準備として、図1-3の定理を証明します。

素数が2つの整数の積を割り切るならば、の少なくとも1つを割り切る。


図1-3: ユークリッドの補題
証明しましょう。
を割り切るとし、このときを割り切る場合割り切らない場合で場合分けをします。
を割り切る場合、これは証明したい命題を満たします。
素数を割り切らない場合、割り切らないということはは互いに素なので、先ほどの証明より、となる整数が存在します。
両辺にを掛けて、とします。 ここで左辺を見ると、を割り切るため、の倍数です。 また明らかにの倍数です。 よって、の倍数同士を足した左辺はの倍数であるため、右辺のの倍数です。
従って、を割り切るため、の少なくとも1つを割り切ることが分かります。 (証明終)

1.4ユークリッドの補題の拡張



ちなみに、今証明したことを拡張して、図1-4が導出できます。

素数が、いくつかの整数の積「」を割り切るならば、の少なくとも1つを割り切る。


図1-4: ユークリッドの補題の拡張
証明しましょう。
を割り切るなら、は「」か「」の少なくとも1つを割り切ることは先ほど証明済みです。
ここでが「」を割り切らない場合、「」を割り切ることになるので、同様に、は「」か「」の少なくとも1つを割り切ることになります。
これを回繰り返すと最終的に、は「」の少なくとも1つを割り切ることになります。 (証明終)

1.5素因数分解の一意性の証明



最後に、いよいよ、「正の整数は素数の積で表せ、その表し方は積の順序を無視すれば1通りに限られる」ことを証明します。
正の整数は素数の積で表せる」ことは、既に証明しました。 残りの「その表し方は積の順序を無視すれば1通りに限られる」ことを証明しましょう。
まず、ある正の整数を、「」と「」の2通りに素数の積で表せたとします。 のほうがより多い場合には立場を入れ替えて、となるようにしておきます。
このとき、「」ですので、「」の約数であるは、「」の約数でもあるため、「」を割り切ります。 よって先ほどの証明により、は「」のうち少なくとも1つを割り切ります
は互いに入れ替えられるため、適宜入れ替えて、が割り切った数を改めてとします。
は素数のため、を割り切る正の整数はしかありません。 ここで素数()がを割り切るため、「」であることが分かります。
」の両辺を()で割ると、「」となります。 以上を回繰り返すことで、が得られます。
ここでと仮定すると、最終的に両辺は、()で割って、「」となりますが、これは「」がより大きいため成り立たず、よってではありません。 つまり、となります。
従って、「」と「」は同じ素数の積となるため、「正の整数は素数の積で表せ、その表し方は積の順序を無視すれば1通りに限られる」ことが成り立ちます。 (証明終)
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