第2話では、集合と自然数と加算の公理を使って「



」を証明しました。 しかし、これらの公理を持ち出さなくてもわたしたちは「



」であることを確信しています。 そこで、前回のような方法で「



」や「



」などを証明していくことはやめ、その気になればこれらも証明可能であるとした上で、今後は「本当に成り立つかどうか判らないこと」に焦点を当てて進めることにします。




















1整数


どのような2つの整数

に対しても、加算「

」や減算「

」や乗算「

」が行えることはご存知の通りです。 「

」は「

」と書かれたり、しばしば乗算の記号が省略されて「
」と書かれます。




















1.1累乗
整数
と、
以上の整数
に対し、「
」と表された演算を「累乗」といいます。 このとき「
」とは「
を
回掛けた数」を意味し、例えば「
」は「



」、つまり
です。

















また、
でない任意の数
に対し、「


」とします。 例えば「


」です。 「
」は、便宜上「
」と定義されることもありますが、様々な理由から定義しないことも多いです。













1.2絶対値
整数
が
からどれだけ離れているかを、
の「絶対値」といい、「

」と表します。 例えば
の絶対値は「



」、
の絶対値は「




」です。 

のときは「



」、

のときは「




」と計算できます。





































1.3整数を学ぶ意義
物理学などの自然科学では、整数よりも実数を扱うことが多いため、学校教育では整数が深く取り上げられることは少ないのが現状です。
しかし整数にはパズルのような面白さと奇妙さがあるため、数学の大会や未解決問題には整数に関するものが多く現れます。 またコンピュータ上では整数は基本的な要素になるため、素数の定理が暗号に応用されるなど活用されています。
その面白さに触れていただくため、今回は整数の基本的な性質を説明したのちに、最後にそれらを応用した具体的な問題を解いてみることにします。
2整数の性質
ここからは、整数の様々な性質について解説します。
2.1商と余り
2つの整数の除算(

)は、その値が整数にならないことがあります。 そこで、計算結果が整数になる「商」と「余り」というものを定義します。



「

」をしたとき、「商」とは、
個のものを
人に配ったときの1人あたりの個数のことです。 「余り」は、配りきれずに残った個数です。 例えば、「

」の商は
、余りは
です。










これを厳密に数式で定義すると、整数
と、
以外の整数
に対し、「

」をしたときの商と余りとは、それぞれ「










」を満たす整数
と
になります。 「

」の例では、
に
、
に
、
に
、
に
を入れると「











」になり、この数式を満たしていることが解ります。














































2.2割り切る、約数、倍数
「

」の余りが
であれば、「
は
を割り切る」といいます。 例えば「

」は余りが
なので、
は
を割り切ります。
























2.3公約数、公倍数
2つ以上の整数の共通の約数と倍数を考えましょう。























































補足
gcdは「greatest common divisor (最大公約数)」の略、lcmは「least common multiple (最小公倍数)」の略です。
2.4最大公約数と最小公倍数の求め方
最大公約数を何も考えずに求めると時間がかかりますが、図2-1に示した「ユークリッドの互除法」という方法を使うと早く求まります。
- 2つの整数のうち、小さいほうを
、大きいほうを
とおく。
をしたときの余りを
とおく。
- このとき
であれば、
と
の最大公約数は、
と
の最大公約数に等しい。 よって、
と
の最大公約数を求めることにして(1)に戻る。 一方で
であれば、
と
の最大公約数は、
である(計算終了)。
例えば

と
の最大公約数をユークリッドの互除法で求めた結果は、図2-2の通りです。





と
のうち、小さいほうは
、大きいほうは
なので、
、
とおく。
、つまり
の余りは
なので、
より、
。
- 同様に、
、
として繰り返すと、
。
- ここで、
の余りは
なので、
より、
。
- よって、
。
また、最小公倍数






は「









」で求まります。 例えば

と
の最小公倍数は、










































となり、

です。







































































2.5互いに素
2つの整数
と
が、
と
以外に公約数を持たないとき、すなわち








のとき、
と
は「互いに素」であるといいます。 例えば









なので、
と
は互いに素です。































3素数
正の約数が
と
だけである、
以上の整数
のことを、「素数」といいます。 言い換えると素数とは、
以上の整数のうち、
と自分自身以外の正の整数では割り切れない数のことです。 素数でない
以上の整数を「合成数」といいます。







素数を小さい順に並べると「

























」と無限に続いていきます。 「
」が素数に含まれていないのは、
と自分自身以外である「
」で割り切れるためです。






























素数は、「エラトステネスの篩」という方法で得ることができます。 これは「
以上の整数のうち、どの素数の倍数でもないものは素数である」ことを利用した方法で、図3-1のように行います。


3.1素因数分解
すべての正の整数は、素数の積(掛け算)で表すことができます。 例えば累乗を使うと、「







」「







」「







」「







」「







」「







」のように表せます。 このように正の整数を素数の積で表すことを、「素因数分解」といいます。






















































どの正の整数も必ず素因数分解することができ、そのパターンは(積の順序を無視すれば)1通りに限られます。 この性質は「素因数分解の一意性」と呼ばれ、他の定理を証明するのにとても役立ちます。
素数に「
」を含めない理由は、
を素数に含めると、「























」のように素因数分解の一意性が成り立たなくなるためです。



























4不定方程式
さて、それでは今までに紹介した整数の性質を応用した具体的な問題に挑戦してみましょう。 「不定方程式」と呼ばれる問題です。
「方程式」とは、「


を満たす
を求めよ」のような、等式を成立させる変数の値を求める問題のことです。 このとき、等式が成立するような変数の値のことを、方程式の「解」といいます。





方程式のうち「不定方程式」とは、方程式の解が無数にあるものを指します。 例えば「




を満たす
と
の組み合わせを求めよ」のようなものです。 この場合、「





」や「





」などが解となります。






















このように不定方程式では方程式の解が無数にありますが、数学の大会では、条件を付けることで解の個数を有限個にして出題されます。 その条件をいかに利用して解くかというところに、パズルのような面白さがあります。
4.1問題
それでは不定方程式の具体的な問題として、図4-1に挑戦しましょう。
問題
ある桁の整数
を、
のように逆順にしたとき、もとの数
の
倍になった。
の値を求めよ。
4.2解法
まずは、不定方程式を組み立てます。
桁の整数
を上の桁から1桁ずつ
、
、
、
と置くと(例えば




の場合は

、

、

、

)、逆順にしたときに元の数の
倍になることから図4-2の方程式が出来上がります。

























このままではこの式は4つの変数を含んだ不定方程式で解が無数に存在しますので、様々な条件を利用して解を絞り込んでいきます。
4.3aの値を求める
まず

の場合は
が
桁以下になってしまうので、

であるといえます。 また、

の場合は
倍すると
桁以上になってしまうため、

といえます。 つまり、
は
か
のどちらかとなります。



















ここで仮に

だとすると、方程式は「


































」となり、右辺の一の位が「
」になっています。
倍して一の位が
になる整数はありませんので、

の場合に解は存在しないことが判ります。 よって、解が存在するとしたら

の場合のみとなります。
















































4.4dの値を求める

























































ここで

だとすると、方程式は「

































」になりますが、この式を整理すると「











」になり、
に
~
のどの値を入れても
は負の数になるため、

であることが判ります。 よって、解が存在するとしたら

の場合のみとなります。





























































4.5bとcの値を求める


























































































よって、

、

、

、

より、




です。 









より、
倍すると確かにもとの数の逆順になることが解ります。






























5有理数と実数
さて、ここまで整数について扱ってきましたが、ここからはさらに細かな「実数」を扱います。 実数とは、いわゆる「小数」のことです。
5.1有理数
「整数
整数」の分数で表せる、分母が
以外の数を「有理数」といいます。 例えば、「

」や「

」や「


」は有理数です。 「





」という小数も、「


」という分数で表せるので有理数です。























このとき、有理数全体の集合を「
」と表すことにします。 つまり、「
























」です。



























5.2無理数
有理数以外の実数を「無理数」といいます。 無理数には、例えば円周率「








」や、
の値「









」などがあります。 これらは「整数
整数」の分数で表すことができません。























「












」のように数字が循環する小数は必ず「整数
整数」の分数に直すことができ、有理数になります。 「

」も、「





」と循環しているので有理数です。 循環しない小数は必ず無理数になります。

























有理数と無理数を合わせて「実数」といいます。 実数全体の集合を「
」と表すことにします。

補足
ここで「実数」を曖昧な定義で使ってしまいましたが、厳密に定義することもできます。 いくつか定義の方法はありますがその1つを簡単に言うと、有理数を限りなくたくさん並べていくと何かの数に限りなく近づくことがあります。 その数は有理数ではないことがあり、それを無理数と定義します。 有理数と無理数を合わせて実数です。
5.3包含関係
さて、すべての自然数は、整数の中に含まれます。 また、すべての整数は、有理数の中に含まれます。 従って、今までに紹介した数は図5-1のような包含関係になります。
自然数整数
有理数
実数
5.4主な演算
有理数および実数には、整数と同様に、2つの数

に対して、加算「

」、減算「

」、乗算「

」、累乗「
」、絶対値「

」が定義されています。 また
でない
に対して、除算「

」も定義されています。
が
の場合、例えば「

」などは未定義です。



























これに加え、実数には「平方根(
)」や「冪根(
)」が定義されます。 「
」とは、「


」を満たす負でない
のことです。 例えば「
」を考えると、「


」なので「

」です。 またこれを拡張して、「


」を満たす負でない
の値を「
」と表します。 例えば「



」なので、「

」です。






























平方根の値をいくつか挙げると、表5-1のようになります。
平方根 |
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今回は、整数や実数などの基本的な性質を紹介しました。 次回は、これらの数を扱う上で重要となる「関数」や「写像」を説明します!