第2話では、集合と自然数と加算の公理を使って「



」を証明しました。 しかし、これらの公理を持ち出さなくてもわたしたちは「



」であることを確信しています。 そこで、前回のような方法で「



」や「



」などを証明していくことはやめ、その気になればこれらも証明可能であるとした上で、今後は「本当に成り立つかどうか判らないこと」に焦点を当てて進めることにします。




















1整数



どのような2つの整数

に対しても、加算「

」や減算「

」や乗算「

」が行えることはご存知の通りです。 「

」は「

」と書かれたり、しばしば乗算の記号が省略されて「
」と書かれます。




















1.1累乗
整数
と、
以上の整数
に対し、「
を
回掛けた数」を「
」と表して「累乗」といいます。 例えば「
」は「



」、つまり
です。 「

」は「









」、つまり


です。

































ただし、
でない任意の数
に対し、「


」とします。 例えば「


」「





」です。

















補足
「2の5乗は32」「2の4乗は16」「2の3乗は8」「2の2乗は4」「2の1乗は2」と見ていくと、結果が半分ずつになっていっているため、「2の0乗は1」と考えることが自然だと分かります。
「
」は、便宜上「
」と定義されることもありますが、様々な理由から多くの場合には定義されません。



補足
「0の0乗」が通常定義されない理由の1つは、「3の0乗は1」「2の0乗は1」「1の0乗は1」と見ていくと「0の0乗は1」と考えることが自然なのに対し、「0の3乗は0」「0の2乗は0」「0の1乗は0」と見ていくと「0の0乗は0」と考えることが自然となって矛盾するためです。
累乗には図1-1の法則が成り立ちます。
(1)は、「





(
が
個)」と「





(
が
個)」を掛けると、全部で「





(
が

個)」になることから明らかです。





























(2)は、割り算によって
の個数が相殺されるため、
の数が引き算になります。


(3)は、「





(
が
個)」自体が
個あるということなので、「





(
が

個)」となります。





















(4)は、「











(
と
がそれぞれ
個ずつ)」なので、順番を入れ替えて「













(
と
がそれぞれ
個ずつ)」となります。


































1.2絶対値
さて、整数
が
からどれだけ離れているかを、
の「絶対値」といい、「

」と表します。 例えば
の絶対値は「



」、
の絶対値は「




」です。




















絶対値とは、「正の数のときはそのままで、負の数のときはマイナスを取った数」と考えても良いでしょう。
より厳密に定義すると、図1-2となります。
以下を満たすを
の絶対値という。
のとき、
。
のとき、
。
例えば


の場合、

なので、












です。





















2整数の性質
さて、ここからは整数の様々な性質について解説します。
2.1商と余り
2つの整数の除算(

)は、その値が整数にならないことがあります。 そこで、計算結果が整数になる「商」と「余り」というものを定義します。



「

」をしたとき、「商」とは、
個のものを
人に配ったときの1人あたりの個数のことです。 「余り」は、配りきれずに残った個数です。 例えば、「

」の商は
、余りは
です。










「

の商は
、余りは
」とは「
個のものを
人に配ったとき、1人あたり
個ずつになり
個余る」ということですが、言い換えると「1人あたり
個のものが、
人分あり、それと余りの
個を合わせると
個になる」ことと同じなので、「





」と書けます。 つまり、「

の商
と余り
」とは、「





」を満たす数と定義できます(図2-1)。
































整数と、
以外の整数
に対し、「
」をしたときの商と余りとは、それぞれ「
」を満たす整数
と
である。
例えば「

」を考えると、商が
、余り
になりますが、図2-1の式の
に
、
に
、商
に
、余り
に
を入れると「











」となり、確かに数式を満たしていることが分かります。



























図2-1で
が
のときは商や余りが定義されません。 つまり「

」などは定義されません。





2.2割り切る、約数、倍数
「

」の余りが
であれば、「
は
を割り切る」といいます。 例えば「

」は余りが
なので、
は
を割り切ります。 また「


」も余りが
なので、
は
を割り切ります。




















そして
は
を割り切るとき、
は
の「約数」といい、また
は
の「倍数」といいます。 例えば
は
を割り切るため、
は
の約数、
は
の倍数です。
は
を割り切るため、
は
の約数、
は
の倍数です。





















そして、
の約数とは、
を割り切る数なので小さい順に列挙すると、「





























」となります。 また、
の倍数とは、「

















」となり、つまり偶数全体になります。

































































2.3公約数、公倍数
さて、2つ以上の整数の、共通の約数と倍数を考えましょう。







































2.4最大公約数と最小公倍数
























補足
gcdは「greatest common divisor (最大公約数)」の略、lcmは「least common multiple (最小公倍数)」の略です。
例えば、
の約数は全部で「

















」で、
の約数は全部で「

















」です。 このとき、
と
の公約数は共通の「







」となり、最大公約数はそのうち最大のものなので、








です。





























































また、
の正の倍数は「










」で、
の正の倍数は「













」です。 このとき、
と
の正の公倍数は共通の「








」となり、最小公倍数はそのうち最小のものなので、









です。




















































正の整数

に対して、「



















」が成り立つという法則があります。 例えば、「




















」でしたので、「



















」に代入して「






」より「



」となって成り立っていることが分かります。 これを使えば、最大公約数と最小公倍数のどちらかが分かればもう一方は簡単に計算できます。
















































































2.5ユークリッドの互除法
最大公約数を安直に求めると時間がかかりますが、図2-2に示した「ユークリッドの互除法」という方法を使うと早く求まります。
- 最大公約数を求めたい2つの整数のうち、大きいほうを
、小さいほうを
とおく。
をしたときの余りを
とおく。
- このとき
であれば、
と
の最大公約数は、
と
の最大公約数に等しい。 よって、
と
の最大公約数を求めることにして(1)に戻る。
- 一方で
であれば、
と
の最大公約数は、
である。(計算終了)
例えば、

と
の最大公約数をユークリッドの互除法で求めた結果は、図2-3の通りです。





と
のうち、大きいほうは
、小さいほうは
なので、
、
とおく。
つまり
の余りは、
なので、「
と
の最大公約数は、
と
の最大公約数に等しい」ことにより、
。
- 同様に、
、
として繰り返すと、
。
- ここで、
の余りは
なので、
より、
。
- よって、
。
一般的には、共通の約数を列挙するよりも単に割り算を繰り返すほうが簡単なので、この方法が便利になります。
3素数
正の約数が
と
だけである、
以上の整数
のことを、「素数」といいます。 例えば
は、正の約数が
と
だけなので素数です。
は、正の約数が
と
の他に
もあるため、素数ではありません。











言い換えると素数とは、
以上の整数のうち、「『
と自分自身』以外の正の整数では割り切れない数」のことです。 素数でない
以上の整数を「合成数」といいます。



素数を小さい順に並べると「

























」と続いていきます。 素数は無限に存在します。 また、素数の現れ方は不規則に見え、その規則を捉えるための研究が古代から現在にいたるまで続いています。



























素数は、「エラトステネスの篩」という方法で得ることができます。 これは「
以上の整数のうち、他の素数の倍数でないものは素数である」ことを利用した方法で、図3-1のように行います。


3.1素因数分解
すべての正の整数は、素数の積(掛け算)で表すことができます。 例えば、「



」「



」「






」などです。 このように正の整数を素数の積で表すことを、「素因数分解」といいます。


















また素因数分解したときに現れるそれぞれの素数を「素因数」といいます。 例えば「




」なので、
の素因数は
と
です。










どの正の整数も必ず素因数分解することができ、そのパターンは、積の順序を無視すれば1通りに限られます。 例えば累乗を使って表すと、「







」「







」「







」「







」「







」「







」のようになります。 この性質は「素因数分解の一意性」と呼ばれ、他の定理を証明するのに役立ちます。






















































素数に「
」を含めない理由は、
を素数に含めると、「























」となって、素因数分解の一意性が成り立たなくなるためです。



























3.2互いに素
2つの整数
と
が、
と
以外に公約数を持たないとき、すなわち








のとき、
と
は「互いに素」であるといいます。 例えば









なので、
と
は互いに素です。































正の整数
と
が「互いに素」であるとは、
と
に「共通の素因数がない」ことと同値です。 例えば、



、






より、
と
には共通の素因数が含まれていないため互いに素といえます。




















4合同式
さて、割り算の余りの話に戻りますが、「
を
で割った余りは
」で、「
を
で割った余りも
」で、一致しています。 これは、「整数を
で割った余りの世界では

が成り立っている」と言えるでしょう。 このように
で割った余りが一致しているとき、「
と
は
を法として合同」といい、「





」と書きます。























また一般に、

と

の余りが一致しているとき、「
と
は
を法として合同」といい、「





」と書きます。 一致していないときは「





」と書きます。 このように書いた式を「合同式」といいます。



























例えば、「
を
で割った余り」は「
を
で割った余り」と同じなので、「





」となります。 一方「
を
で割った余り」は「
を
で割った余り」と異なるので、「





」となります。


























合同式は、両辺に同じ数を足したり引いたり掛けたりしても成立する性質があります(図4-1)。
任意の整数に対し、
が成り立つとき、以下の(1)から(3)が成り立つ。
- 任意の整数
に対し、
。
- 任意の整数
に対し、
。
- 任意の整数
に対し、
。
例えば、「





」が成り立ちましたので、両辺を

倍して「









」も成り立ちます。

























5不定方程式
それでは最後に、今までに紹介した整数の性質を応用した具体的な問題に挑戦してみましょう。 「不定方程式」と呼ばれる問題です。
「方程式」とは、「


を満たす
を求めよ」のような、等式を成立させる変数の値を求める問題のことです。 このとき、等式が成立するような変数の値のことを、方程式の「解」といいます。





方程式のうち「不定方程式」とは、方程式の解が無数にあるものを指します。 例えば「




を満たす
と
の組み合わせを求めよ」のようなものです。 この場合、「





」や「





」などが解となります。






















このように不定方程式では方程式の解が無数にありますが、条件を付けることで、解の個数が有限個になることがあります。 今回はその条件を利用することで、パズルのように解ける問題を見ていきましょう。
5.1問題
それでは不定方程式の具体的な問題として、図5-1に挑戦しましょう。
問題
を
とすることを「逆順にする」ということにする。 このとき、ある
桁の整数
を逆順にすると、もとの数
の
倍になった。
の値を求めよ。
5.2解法
まずは、不定方程式を組み立てましょう。
桁の整数
を上の桁から1桁ずつ
、
、
、
と置きます。 例えば、




の場合は

、

、

、

です。 すると、
は














と表せます。









































このとき、逆順にしたときに元の数の
倍になることから、図5-2の方程式が出来上がります。

左辺は
を
倍した数、右辺は
を逆順にした数です。



このままではこの式は4つの変数を含んだ不定方程式で解が無数に存在しますので、様々な条件を利用して解を絞り込んでいきましょう。
5.3aの値を求める
まず

の場合は
が
桁以下になってしまうので、必ず

であるといえます。 また、

の場合は
倍すると
桁以上になってしまうため、

といえます。 つまり、
は
か
のどちらかとなります。



















ここで仮に

だとすると、方程式は「


































」となり、右辺の一の位が「
」になっています。 左辺は整数を
倍した数ですが、
倍して一の位が
になる整数はありませんので、左辺と右辺は常に一致しません。 つまり、

の場合に解は存在しないことが判ります。 よって、解が存在するとしたら

の場合のみとなります。

















































5.4dの値を求める

























































ここで

だとすると、方程式は「

































」になりますが、この式を整理すると「











」になり、
に
~
のどの値を入れても
は負の数になるため、

であることが判ります。 よって、解が存在するとしたら

の場合のみとなります。





























































5.5bとcの値を求める





























































































よって、

、

、

、

より、




です。 試しに




を計算すると、


となって、確かに「
倍するともとの数の逆順になっている」ことが分かります。





























今回は、整数の基本的な性質を紹介しました。 次回は「実数」と、これらの数を扱う上で重要となる「関数」や「写像」を説明します!