1写像
「写像」とは、ある集合のすべての元それぞれをある集合の元に対応付けるもので、「関数」と呼ばれることもあります。 図1-1における、元と元とを結ぶ「矢印」の集まりに相当するものが写像です。

写像
が集合
の元と集合
の元を対応付けることを「



」と表します。 またこのとき、集合
の元
に対応する集合
の元を「


」と表します。















「



」のとき、集合
のどのような元
に対しても、対応する元


は集合
に1つだけ存在します。 対応先が存在しなかったり、複数存在することはありません。












また写像は、同じ集合の間で対応付けることもできます。 つまり「



」であっても構いません。





例えば、自然数全体の集合
に対し、
の元
を2倍する「





」は、写像「



」となります(図1-2)。
















1.1全射、単射、全単射
「



」において、
の元が
のすべての元を余すところなく対応付けている場合、
を「全射」といいます。 厳密には、集合
のすべての元
に対する


を集めたものが集合
と一致したとき、
は全射です。
















また、
のそれぞれの元に対応する
の元に重複が無いとき、
を「単射」といいます。 厳密には、
の任意の異なる2つの元

に対し、必ず


と


が異なるとき、
は単射です。
















写像
が全射かつ単射であるとき、
を「全単射」といいます。 このとき、
の元と
の元がちょうど1対1で対応する形になります。




全射、単射、全単射のイメージを図1-3にまとめました。

1.2逆写像
写像
の、元の対応の向きを逆にした写像を、
の「逆写像」といい「

」と表します。 厳密には、「



」「



」の2つの写像が、
の任意の元
に対して常に「







」を満たし、
の任意の元
に対して常に「







」を満たすとき、
は
の逆写像「



」です。












































例えば、「






」という写像「



」と、「






」という写像「



」を考えると、「















」および「















」ですので、
は
の逆写像「



」だといえます(図1-4)。




































































写像
が全単射でなければ、
に逆写像は存在しません。 また
が全単射であれば、必ず
の逆写像

が存在し、それは1種類しかありません。







2濃度
それでは最後に、整数
や実数
などの元の個数について考えてみましょう。 元の個数が無限個の場合でもその大小が判断できるように、「個数」を一般化した「濃度」というものを導入します。


2.1有限集合の濃度
ある集合
に対し、その元の個数のことを、集合Aの「濃度」といい「





」と表します。 例えば「

イヌ
ネコ
ウサギ
」のとき、「







」です。























このとき、2つの集合
、
に対し、それらの元の個数を比較することで、濃度が等しい「













」とか、
の濃度のほうが大きい「













」などと言えます。 例えば、「

イヌ
ネコ
ウサギ
」「

ミカン
リンゴ
ブドウ
」であるとき、「







」「







」なので、「













」です。














































































さて、元の個数が有限個の場合はこのように個数を数えることで濃度の比較ができますが、元の個数が無限個になると個数を数えることができなくなって比較できなくなります。 そこで、元の個数の代わりに写像を使うことで、濃度を比較することにします。 図2-1のように定義します。
2つの集合、
に対し、
と
との間に全単射の写像が1つでも存在すれば
であり、存在しなければ
である。
のとき、
である。
例えば、「

イヌ
ネコ
ウサギ
」「

ミカン
リンゴ
ブドウ
」のとき、元を1つずつ対応付ける写像は全単射ですので、「













」といえます。



























「

イヌ
ネコ
」「

イヌ
ネコ
ウサギ
」のとき、元を1つずつ対応付けていくと
の元が1つ余りますので全単射の写像を作ることはできません。 よって「













」です。 またこのとき「

」なので「













」です。













































このように、元の個数を数えなくても、写像を使うことで濃度の比較ができるようになりました。
2.2可算の濃度
さてそれでは、元が無限個の集合同士の濃度を比較してみましょう。 まずは自然数
と整数
の濃度を比較します。


図2-2のように写像を作ると、
の元に余りも重複もありませんので、これは
と
との間の全単射の写像になります。 よって、













です。























同様に、有理数
を考えた場合も、図2-3のように辿ることで
の元を網羅することができ、
と
との間に全単射の写像を作ることができますので、













です。




















このように自然数
と1対1で対応付けられる集合の濃度のことを、「可算の濃度」といい「
」と表します。 すなわち、「
























」です。





























2.3カントールの対角線論法
元が無限個の集合の濃度は必ず
になるかというと、そうとも限りません。 例えば実数
の濃度は、自然数
の濃度よりも大きくなります「













」。 ではこれから「カントールの対角線論法」と呼ばれる方法で、それを証明してみましょう。



















まず、「カントールの対角線論法」では「背理法」と呼ばれる証明方法を使います。 背理法とは、「
が成り立つと仮定してわざと矛盾を導き、消去法で
を証明する」という証明方法です。 第1話で解説したように、一般的な数学ではあらゆる命題
に対して「矛盾が無いこと(
と
が同時に証明されないこと)」と「排中律(
か
のどちらかが成り立つこと)」を前提としていることを利用したものです。 図2-4のような流れになります。










背理法で証明したい命題をとしたとき、
- まず
の否定である「
」が証明されたと仮定する。
- すると、矛盾が生じることが判明した。
- 数学は矛盾が無いことを前提としているので、命題
は成り立ってはならない。
- 一般的な数学は「
」と「
」のどちらかが成り立つことを前提にしているので、消去法で
が成り立つことになる。
- よって、
は定理である。(証明終)
それでは、背理法である「カントールの対角線論法」によって、「













」となることを見ていきましょう。















まずは「













」の否定である、「













」を仮定して矛盾を導きます。 ただし実数
は広大すぎるので、ここでは話を単純にするために、
の代わりに「
より大きく
より小さい実数」だけに絞った集合「
」を使って進めます。 なお、
と
との間には全単射が作れることが知られていて、













と言うことができます。




















































すると、このとき集合の包含関係「

」より「





















」ですから、これに先ほどの「













」を仮定すると、「













」とせざるを得なくなり、濃度が等しいことから
と
との間に1対1の対応付けが存在することになります。


























































つまり、例えば自然数
の元「
」には実数
のある元「





」が対応し、
の元「
」には
のある元「





」が対応するといった具合です。 この例を図示すると、図2-5のようになります。





















この図では、「
」番目の
の元の「
桁目」、「
」番目の
の元の「
桁目」、「
」番目の
の元の「
桁目」、…と斜めに丸で囲んでいますが、この丸で囲んだ対角線部分の数字を抽出し、それが奇数であれば「
」、偶数であれば「
」とするような数字列の小数を考えます。 すると「





」となります。 このような小数もまた集合
のどこかに存在するはずなので、図のように「
」番目の
の元として対応付けておきます。





















さてここで、図の「?」で示した部分に何の数字が入るかを考えます。 試しに
を入れると「対角線部分が
で偶数なので
を入れるべき」となり、
を入れると「対角線部分が
で奇数なので
を入れるべき」となって、どのような数字も入れることができません。 つまり「
」番目の
の元として対応付けられないことになります。








よって、「
」番目の
の元として対応付けられることと、対応付けられないことが示されましたので、矛盾します。


以上より、「













」を仮定すると矛盾が生じましたので、「













」が証明されます。 以上が「カントールの対角線論法」でした。






























2.4連続の濃度
このような実数
の濃度のことを、「連続の濃度」といい「
」と表します。 以上をまとめますと、濃度の大小関係は図2-6のようになります。


「
」とは以前に説明した通り、元が1つもない集合「空集合」です。

今回は、写像や濃度について解説しました。 次回は、三角形や円などの様々な図形について解説します!