1位相
1.1開集合
一方で
や
という集合は、点がぎっしりと詰まっていますので、点よりも領域に着目して考えたほうが、図形の巨視的な性質が見えることがあります(図1-1)。





これまでは図の左側のように点に着目して扱っていました。 一方図の右側では、赤く塗られた領域に点が集まっていますが、このような領域を考えれば、例えば点と点の繋がり方など様々な性質が定められます。 そこでこの領域、正確には領域の縁を含まない内部を「開集合」と呼び、この開集合を集めた「位相」という構造を考えることにします。
「位相(phase)」という言葉は周期関数でも使われますが、今回説明する「位相(topology)」はそれとは無関係で単に開集合を定めたものです。
1.2位相空間
開集合と位相の厳密な定義は、抽象的で分かりにくいですが図1-2の通りです。
空集合でない集合に対し、集合
が以下を満たすとき、
は
の位相といい、
の元を開集合という。
のすべての元は
の部分集合である。
自体と空集合も
に属する。
から任意の有限個の元
を取り出したとき、それらの共通部分
も
に属する。
から任意の元を集めたとき、それらの和集合も
に属する。
それでは先ほどの
上の領域の、境界部分を含まない内部を「開集合」と呼んだとき、上記の定義を満たすことを確認しましょう。


まずこの「
」は定義の
に相当します。 そして
のすべての領域内部を集めた集合が位相
です。 つまり、

「中心



、半径
の円の内部」
「







で囲まれた部分の内部」

といった感じで、全パターンの領域内部を集めて位相を構築します。




























これらの領域は、繋がっていなくても構いません。 つまり図1-3のような領域が
に属し、
自体と空集合も
に属すとします。





このとき、
から有限個の開集合を取り出すと、それらの開集合の重なっている部分の領域も
に属する開集合になることが分かりますし、
から任意の開集合を取り出すと、それらを足し合わせた領域も
に属する開集合になることが分かると思います。




以上より、このような
は先ほどの位相の定義を満たします。 集合と位相をセットにしたもの「




」を「位相空間」と呼びます。







1.3点の繋がり方
集合に位相が定義されるということは、元の繋がり方が定義されることとも見なせます。 例えば先ほど




を定義したことにより、
の点同士の繋がり方が決まります。








では
の点の繋がり方を見てみましょう。 
の点



を含むような開集合を考えると、それがどれだけ小さな開集合だったとしても、



に近いところにある点が1つはこの開集合に含まれてしまいます。 この開集合に含まれる点が



だけになることはありません。 つまり



は近くの点と連続して繋がっていて、孤立していないといえます。
























このような点の繋がり方は、位相の定義を変えると変わってきます。 ここまでで説明した「境界部分を含まない内部」を開集合とみなすような位相のことはよく「通常位相」などと呼ばれます。 以下ではそれ以外の位相の例を紹介します。
1.4密着位相
まず、集合
において、







という集合を考えると、この
も
の位相となります。
は空集合を表す記号です。 この
が先ほどの位相の定義を満たすことは明らかです。


















この位相
は、開集合が
と
しかないということですから、直感的に考えると、適当に開集合を囲んだときに、
の全部の点がその開集合に入るか、どの点も開集合に入らないかしかないということです。 これは、2つの点が異なる開集合に含まれるように囲めないことを意味しますので、言い換えると、全部の点が1箇所に集まっているような繋がり方だといえます。







このように集合全体と空集合しか属していない位相を「密着位相」といいます。
1.5離散位相
今度は逆に、集合
においてあらゆる部分集合を集めた
を考えます。 


































という感じです。 この
も先ほどの位相の定義を満たします。










































この位相
には、どの点に対してもその点だけを含む開集合が存在します。 もし隣の点と連続して繋がっていたら1点だけを開集合で囲んで分離できないはずなので、この位相は全部の点がばらばらになっている繋がり方だといえます。


このようにあらゆる部分集合を集めた位相を「離散位相」といいます。
1.6いろいろな集合の位相
さてここまでは、2次元の無限に広がる平面
での位相を確認しましたが、他にもいろいろな集合で位相空間を考えることができます。


例えば、3次元の無限に広がる空間
内の「閉じた曲面の境界部分を含まない内部」は、同様に開集合の定義を満たし、通常位相の位相空間になります。 また1次元に無限に広がる直線
上の「境界部分を含まない区間」も、通常位相の位相空間になります(図1-4)。




他にもこの図のように、空洞のトーラス(ドーナツの形)や球面などを考えると、その表面上に描いた「閉じた曲線の境界部分を含まない内部」は開集合の定義を満たし、通常位相の位相空間になります。
2同相
さて、位相空間同士の対応関係を考えて、位相の構造を維持するように図形を変換していくと、まるでゴムのように伸び縮みするような立体を扱うことができます(図2-1)。

この図では、ドーナッツにおける開集合が変換後に必ず開集合になるという条件で変換していったところ、ドーナッツの形がコーヒーカップの形に変換できています。
このように、2つの位相空間の間で位相の構造が維持されているとき、この2つの位相空間は「同相」であるといい、
の記号で表します。 厳密な定義は図2-2の通りです。

位相空間から
への写像のうち、以下を満たす写像
が存在するとき、これらの位相空間は同相
であるという。
は全単射である。
の任意の開集合
に対し、
である。
の任意の開集合
に対し、
である。
この定義は要するに、2つの位相空間の間で開集合や点の関係を維持して変換できるとき、2つの位相空間は同相だと呼んでいます。
また、同相な位相空間のあいだで、ある性質が必ず維持されるとき、その性質のことを「位相不変量」といいます。 例えば、同相な位相空間の間では「穴の数」は等しく、位相不変量の1つとなります。 先ほどのドーナッツとコーヒーカップでも、穴の数が1個であることが維持されています。
このようにゴムのように伸び縮みさせて変換できる位相空間は、しばしば軟らかい図形を扱う分野へ応用されます。
3位相不変量の例
位相不変量の例をいくつか紹介します。
3.1図形の穴
トーラス(ドーナツの形)には穴が1つありますが、このような「穴」の数は前述の通り位相不変量で、同相な位相空間では等しくなることが知られています。 ただし穴とは点が存在しない部分ですので、穴を数学の言葉で直接説明することは難しく、実際には穴を間接的に扱うことになります。
例えば、立体の表面に任意の輪を作り、その輪を連続的に縮めていくと必ず1点に縮まるとき、その立体には穴が無いと考えることができます。 穴のない球面の輪は必ず1点に縮まりますが、穴のあるトーラスの場合には全体を1周するような輪は穴が邪魔で1点に縮まりません。
このような2つの輪

が、連続的な変形で互いに重なるとき、同じ種類の輪と見なすとします。 このとき、立体に何種類の輪が存在するかによって、穴の数を間接的に扱うことができます。 このように、立体に存在する輪の種類を集めたものは「ホモトピー類」と呼ばれ、位相不変量の1つです。



3.2連結とコンパクト
他の位相不変量として、「連結性」や「コンパクト性」などがあります。
「連結」であるとは、直感的には図形が1つの図形として繋がっていて、複数の部分に切り離されていないことです。 より厳密に定義すると、位相空間「



」において、空でない2つの開集合



で





かつ





を満たすものがあれば、この位相空間



は
と
に切り離されていることになり、そのような2つの開集合が存在しなければ



は「連結」であるといいます。






































また「コンパクト」であるとは、直感的には図形が無限に広がっていないことです。 厳密に定義すると分かりにくいですが、位相空間「



」において、開集合の和集合が
と一致したときに、必ずそれらの開集合から有限個を取り出して和集合が
と一致するようにできるとき、位相空間「



」は「コンパクト」であるといいます。 図3-1のイメージです。













この図では、トーラスの表面にいくつか開集合が集まって、それらがトーラス全体を覆っている状況を表しています。 このような開集合が与えられたときに、必ずそれらの開集合から有限個を取り出してトーラス全体を覆うことができるとき、このトーラスは「コンパクト」だといえます。 言い換えると、有限個の開集合で覆い尽くせないほど無限に図形が広がっていると(
や
など)、コンパクトではなくなります。




「連結性」や「コンパクト性」は位相不変量なため、「穴」の数と同様、同相な位相空間の間の変換で保たれます。
4結び目理論
最後に、位相空間の応用例を紹介します。
位相空間を応用した分野はいろいろありますが、その一つは「結び目理論」です。 複雑に絡まったヒモでできた輪が与えられたとき、それを変形して別の輪にできるかどうか、結び目のパターンはどう分類できるかなどを研究する分野です(図4-1)。

図の左のヒモは、切り貼りせずに右のヒモに変形できますが、論理的に説明しようとすると難しいことが分かります。
ちなみに同相になるように変換しただけでは、ヒモ同士がすり抜けるような変換が許容されてどんな結び目も変換できてしまうため、結び目理論では同相に加えてすり抜けられないような制約を課します。
以上で、全12回にわたる「6さいからの数学」の基本編はおしまいです。 ここまで多くの証明を割愛しつつ、概念の分かりやすさを優先して説明した箇所が多かったため、今後は徐々に数式や厳密な定義に慣れて理解を深めてみてください。 お疲れ様でした!