2024年12月22日くいなちゃん


くいなちゃん数学」発展編、今回は、モノイドや群について解説します! 基本編を全部読み終えていることを想定しています。
モノイドや群は、足し算や掛け算などの「演算」を抽象化したものです。 数に対する演算だけでなく、図形を回転・反転させる操作や、文章を書くといった操作まで、幅広く抽象化します。

1さまざまな代数的構造

1.1二項演算とマグマ



さて、整数の足し算や掛け算は、2つの元と1つの元を対応付ける写像のようなものだと考えられます。 例えば「」は、「」の2つの元を「」に対応付ける写像のようなものだといえます。
しかし基本編第4話で説明した通り、写像とは1つの元と1つの元を対応付けるものなので、2つの元を扱えません。 そこで、こちらのページで詳しく説明した「直積」を使います。 例えば、整数の足し算は、「からへの写像」と考え、「」とします。 「」のケースでは、に属する元「」と「」を対応付けて、「」のようになります。
補足

「f((4,3))=7」の括弧が二重になっていますが、外側は写像の括弧で、内側は直積に属する元、つまり順序対の括弧です。

これを一般化して、ある集合に対し、からへの写像のことを「二項演算にこうえんざん」といい、を合わせた「」を「マグマ」といいます。
ちなみに、整数の足し算は結果が必ず整数になりますが、整数の割り算は結果が整数になるとは限りません。 このため整数の割り算は、「」とならず、二項演算ではありません。
二項演算は、写像「」で表記するよりも、足し算「」や掛け算「」のような記号を使って、「」「」のようによく書かれます。 この場合、マグマ「」も足し算や掛け算の記号を使って、「」「」のように表されます。 以下、「」「」「」などの記号をまとめて「」で表し、マグマを「」と表記します。

1.2モノイド



さて、マグマ「」において、図1-1の条件を満たすとき、「」は「モノイド」といいます。

マグマ「」において、以下を満たすとき、「」を「モノイド」という。

  1. (単位元)
  2. (結合律)
図1-1: モノイド
1つ目の条件は、ある元が存在して、任意の元と「」を常に満たすというものです。 このを「単位元たんいげん」といいます。 例えば、整数の足し算「」では、「」が単位元となり、任意の整数に対して「」を満たします。 整数の掛け算「」では、「」が単位元です。
補足

空集合の場合には単位元が存在しないため、空集合はモノイドになりません。

2つ目の条件は、任意の元が「」を満たすというものです。 この条件を「結合律けつごうりつ」といいます。 例えば、整数の足し算は「」を満たし、整数の掛け算も「」を満たします。 よって、整数の足し算「」や整数の掛け算「」はモノイドです。
ここで、「文章を書く」という操作を考えてみます。 文章に文章を付け加えることを「」と表して、空の文章を「」と表すことにします。 例えば、が「ABC」という文章、が「DEF」という文章だとすると、は「ABCDEF」という文章になる感じです。 このとき、空の文章を付け加えると元の文章から変わらないことから「」を満たします。 また、任意の文章に対し「」を満たします。 よって、文章を書くという操作はモノイドとなります。

1.3



さて、モノイド「」において、さらに図1-2の条件を満たすとき、「」は「ぐん」といいます。

モノイド「」において、単位元をとして、以下を満たすとき、「」を「群」という。

  1. (逆元)
図1-2: 群
この条件は、任意の元に対し、と演算すると単位元になる元が存在するというものです。 に対するこのような元を「逆元ぎゃくげん」といい、よく「」の記号で表されます。
例えば、整数の足し算「」では、任意の整数に対し、「」より、「」が逆元になります。 「」の逆元は「」です。 よって条件を満たすため、整数の足し算は「」は群です。
一方、整数の掛け算「」では、例えば整数「」に対し、「」を満たすが、整数に存在しません。 よって、整数の掛け算は群ではありません。

1.4アーベル群



さて、群「」において、さらに図1-3の条件を満たすとき、「」は「アーベルぐん」といいます。

群「」において、以下を満たすとき、「」を「アーベル群」という。

  1. (交換律)
図1-3: アーベル群
この条件は、任意の元に対し、を入れ替えても演算結果が同じになるというものです。
例えば、整数の足し算「」では、任意の整数に対し、「」が成り立つため、整数の足し算「」はアーベル群です。
ちなみに、逆行列が存在する行列全体は、行列の積について群になります。 しかし、この行列の積は一般に「」となることがあるため、アーベル群ではありません。

2群の位数と元の位数

2.1群の位数



さて、ここからは群に関する主な概念について説明します。 群があったときに、それがどのような構造の群なのかを知るのに役立ちます。
群「」において、の元の個数のことを「位数いすう」といいます。 そして、の元の個数が有限のとき、は「有限群ゆうげんぐん」といいます。 の元の個数が有限でないとき、の位数は無限大とし、は「無限群むげんぐん」といいます。
例えば、整数の足し算の群は、の元の個数が有限でないため、群の位数が無限大の無限群となります。

2.2元の位数



また、群において、ある元を、単位元をとしたとき、「 (個)」を満たす最小のを、「の位数」といいます。 また、そのようなが存在しないとき、元の位数は無限大とします。
例えば、整数をで割った余り全体を考えると、足し算「」について群になります。 ただしこの足し算「」とは、「足してからで割った余り」を求める演算とします。 例えば、「」「」「」などといった感じです。 で割った余りは以上以下の整数のため、集合は「」となります。
このとき、群「」の位数は、元が個なので「」です。 また、単位元「」を「」で表すと、各元の位数は、「」「」「」より、元の位数は「」、元の位数は「」、元の位数は「」です。
「群の位数」と「元の位数」は、ややこしいですが別物です。

3部分群

3.1部分群の定義



が群であり、に含まれる空でない集合「」がの二項演算「」に関して群となっているとき、の「部分群ぶぶんぐん」といいます。
例えば、整数の足し算は群となりましたが、偶数全体の集合を考えると、は整数の足し算と同じ演算で群となりますので、の部分群です。
整数をで割った余り全体の集合の場合には、ではありますが、における足し算を行った「」はに属さないため、の部分群ではありません。
部分群かどうかは、図3-1の定理で判定できます。

と、空でない集合があったとき、の部分群であることは、以下の3つの条件を満たすことと同値である。

  1. の単位元をとすると、
  2. の逆元をで表すと、

もしくは、以下の条件を満たすことと同値である。

  • の逆元をで表すと、
図3-1: 部分群の必要十分条件
例えば、整数の足し算に対して、偶数全体の集合を考えると、任意の偶数について、上図の「」に相当する「」も偶数になりますので、の部分群といえます。

3.2自明な部分群



ところで、任意の群において、単位元をとしたとき、単位元だけが属する集合を考えると、これはの部分群「」となります。 例えば、整数の足し算の群に対し、「」だけが属する集合は、の部分群「」です。
また、任意の群において、なため、明らかに自身もの部分群です。
これら2つの部分群は、任意の群に対して存在し、「自明じめい部分群ぶぶんぐん」と呼ばれます。 また、自明な部分群以外の部分群のことを、「自明じめいでない部分群ぶぶんぐん」といいます。

4準同型写像と同型写像

さて、2つの群が同じ構造を持つことを言うために、「準同型写像じゅんどうけいしゃぞう」と「同型写像どうけいしゃぞう」という概念について説明します。 2つの群の関係を、写像を使って判断します。

4.1準同型写像



準同型写像の定義は図4-1の通りです。

2つの群と、写像があって、以下を満たすとき、を「準同型写像」という。

図4-1: 準同型写像
つまり、を演算してから写像で変換すること「」と、をそれぞれ写像で変換してから演算すること「」が常に同じになるとき、を準同型写像といいます。
例えば、整数の足し算の群「」と、整数をで割った余りにおける足し算の群「」があり、整数をで割った余りを求める写像があったとします(図4-2)。
準同型写像の例
図4-2: 準同型写像の例
このとき、整数を足し算してからで割った余りを求めること「」と、で割った余りを求めてから足し算すること「」は、同じになる「」ため、は準同型写像です。
2つの群に対する準同型写像が存在することは、の構造をの中に埋め込むことができると解釈できます。

4.2同型写像



同型写像の定義は図4-3の通りです。

2つの群と、写像があって、以下の2つを満たすとき、を「同型写像」という。

  1. は準同型写像である。
  2. は全単射である。
図4-3: 同型写像
例えば、整数の足し算の群「」と、偶数の足し算の群「」があり、整数を倍する写像「」があったとします。
このとき、整数を足し算してから倍すること「」と、倍してから足し算すること「」は同じになります。 または、の元すべてに対応付けがあり、そして対応付けに重複がないため全単射です。 よって、写像は同型写像です。
重要なこととして、同型写像があったとき、その逆写像も同型写像となります。 つまり、2つの群に対する同型写像が存在することは、2つの群の構造を保ったまま写像と逆写像で行き来できるため、の構造が同じであると解釈できます。
ちなみに、2つの群に同型写像が存在するとき、は「同型どうけい」であるといい、「」と表します。

5群の構造の例

最後に、単純な構造の群をいくつか紹介します。 群の構造には全部でどのような種類があるかを分類することは、さまざまな人々によって試みられました。

5.1自明な群



まず、最も単純な構造の群は、単位元だけが属する群「」です。 これは、「自明じめいぐん」と呼ばれます。
自明な群は群の位数がであり、群の位数がの群は必ず自明な群です。

5.2巡回群



次に単純な構造の群として「巡回群」を紹介します。
整数をで割った余り全体の集合「」は、足し算をしてで割った余りを求める演算「」について群となります。 この群は図5-1のような構造になっています。
巡回群
図5-1: 巡回群
このように、単位元から出発して、ある元を繰り返し演算させるとすべての元が網羅されるような群を、「巡回群じゅんかいぐん」といいます。 群の位数がの巡回群は、「」などと書かれます。
巡回群は、群の位数が無限大の場合も考慮して、厳密には図5-2のように定義されます。

において、単位元を、ある元をの逆元をとする。 また、「 (個)」を「」と表し、「」「 (個)」とする。 このとき、以下の条件を満たせば群を「巡回群」といい、このときの元の「生成元せいせいげん」という。

図5-2: 巡回群の定義
つまり、群において、ある元を使って「」と表せるとき、群を「巡回群」といい、このときの「」をの「生成元」といいます。
例えば、整数をで割った余り全体における足し算の群は、単位元が「」であり、生成元を「」として、各元が「」「」「」「」と表せるため、巡回群です。
また、整数全体における足し算の群は、単位元が「」であり、生成元を「」として、各元が「」「」「」「」「」などのように、「」と表せるため、元の位数が無限大の巡回群です。
ちなみに、単位元だけが属する自明な群「」も、生成元をとした巡回群になります。
巡回群の主な定理を図5-3に列挙します。
  • 巡回群は必ずアーベル群であり、任意の元についてが成り立ちます。
  • 巡回群の部分群は必ず巡回群です。
  • 自明な群でない群の部分群には、自明な群でない巡回群が必ず存在します。
  • 群の位数が素数の群は必ず巡回群です。
図5-3: 巡回群の主な定理

5.3クラインの四元群



巡回群ではない群の例としては、「クラインの四元群しげんぐん」と呼ばれる群があります。 これは群の位数がの群であり、巡回群ではない群の中で最小の群の位数を持ちます。
クラインの四元群は、群の位数がの巡回群がつ組み合わさったような構造をしているため、「」と表記されます。
クラインの四元群は、単位元をとし、他のつの元をとすると、二項演算「」に対する結果は表5-1のようになります。
表5-1: クラインの四元群
  e a b c
e e a b c
a a e c b
b b c e a
c c b a e
例えば、「」や「」が表から読み取れます。 表ではよく分からないと思いますが、このクラインの四元群は、左右と上下の反転操作と見なせます(図5-4)。
クラインの四元群の感覚
図5-4: クラインの四元群の感覚
例えば、「」は2回左右反転をする操作ですが、すると元に戻るため何もしないことと同じなので、「」です。
また、「」は、左右反転してから上下反転する操作なので、これはと同じになり、「」です。
クラインの四元群はアーベル群になっていて、任意の元についてです。
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