2024年11月21日くいなちゃん


くいなちゃん数学」発展編、今回は、基本編第5話で説明した集合の「直積」を深掘りし、それを使って集合に、基本編第4話で説明した「写像」を厳密に定義していきます! 基本編を全部読み終えていることを想定しています。

1直積

直積ちょくせき」とは、基本編第5話で説明した通り、集合「イヌネコ」があったとき、「イヌネコイヌネコ」となるような、すべての元の組み合わせを作る演算のことでした。
ここで、「」で囲まれた「イヌ」とは、集合とは違うものですが、それが一体何なのかという疑問があるため、以下で厳密に定義しておきましょう。

1.1順序対



任意の集合に対し、「」を、図1-1のように定義します。

集合に対し、「」と定義し、この「」を「順序対じゅんじょつい」という。

図1-1: 順序対
この順序対は、のとき、定義から考えて「」より「」が言えますので、に対する「順序を持たせた組」だと言うことができます。
補足

「(X,Y)={{X},{X,Y}}」という複雑な定義になっている理由の一つは、X=Yのときに、集合の性質から「(X,Y)=(Y,X)」が導けることです。 集合の性質として「{X,Y}={X}」となることを利用して、「(X,Y)={{X},{X,Y}}={{X},{X}}={{X}}」となり、同様に「(Y,X)={{Y},{Y,X}}={{Y},{Y}}={{Y}}={{X}}」となるため、X=Yのとき「(X,Y)=(Y,X)」が導けます。

1.2直積の定義



さて、それでは改めて直積を厳密に定義しましょう。 図1-2のようになります。

集合に対し、直積は「」と定義される。

図1-2: 直積
つまり、の元との元が作るすべての順序対を集めた集合となります。

2二項関係

それでは、直積を使って写像を定義する前に、準備としてそれらをより抽象化した「二項関係」を定義しておきます(図2-1)。

集合が、であるとき、における「二項関係にこうかんけい」という。 また、ある元に対し、であるとき、は「-関係かんけい」があるといい、「」と表す。

図2-1: 二項関係
つまり、直積に含まれる集合を「二項関係」と呼び、二項関係に属することを「-関係がある」といいます。
例えば、整数全体の集合に対し、の直積「」を考えます。 このとき、整数について「」となっているものを全部集めた集合「」は、に含まれていますので、このようなにおける二項関係になります。
この例において、例えばの順序対「」はに属するため、には-関係があります。 このことを「」と書きます。 の順序対「」はに属さないため、-関係がありません。
またこのとき、-関係があるものを列挙すると、「」となっています。 これは、が「である」ことを「である」と見なすことができ、これにより写像「」を定義することに繋がります。

2.1全順序と半順序



二項関係の例を紹介します。
2つの整数について、「以下であること」、すなわち「」は二項関係になります。 「」となるを集めた集合「」が、に含まれるためです。
このような「」は、図2-2の条件を満たすため、「全順序ぜんじゅんじょ」と呼ばれます。

集合における二項関係()が以下の4つを満たすとき、を「全順序」という。

  1. (反射律)
  2. (反対称律)
  3. (推移律)
  4. (完全律)
図2-2: 全順序
例えば、整数があったとき、1つ目の条件は、同じ元に対しては「」が成り立つことを言っています。 2つ目の条件は、「かつのときが成り立つ」と言っています。 3つ目の条件は「かつのときが成り立つ」と言っています。 4つ目の条件は「またはのどちらかが成り立つ」と言っています。 整数における「」はこれらの条件を満たすため、全順序です。
ちなみに、4つ目の条件以外を満たす二項関係を「半順序はんじゅんじょ」といいます。 全順序であれば、必ず半順序です。
例えば、複素数における「」を考えると、「」のときには「」が成り立ち、「」のときには「」が成り立ちますが、「」のときには「」も「」も言えないため、複素数における「」は、全順序ではなく、半順序となります。

2.2同値関係



また、2つの整数について、で割った余りが等しいこと「 」は二項関係になります。 「 」となるを集めた集合「」が、に含まれるためです。
このような「 」は、図2-3の条件を満たすため、「同値関係どうちかんけい」と呼ばれます。

集合における二項関係()が以下の3つを満たすとき、を「同値関係」という。

  1. (反射律)
  2. (対称律)
  3. (推移律)
図2-3: 同値関係
この同値関係は、命題の同値とは別のものです。 意味としては同値関係のほうが広いです。
同値関係の例としては、「 」のような整数の合同式以外に、図形の合同、図形の相似、集合の2つの元の一致「」などがあります。

3写像

さてそれでは、いよいよ写像を厳密に定義します(図3-1)。

集合に対する二項関係が以下の2つを満たすとき、を「からへの写像」といい、「」と表す。 またこのとき、-関係であること、つまり「」であることを「」と表す。

図3-1: 写像
1つ目の条件は、のすべての元に、写像によるへの対応付けが存在することを意味します。 2つ目の条件は、同じ元から、の異なる元への複数の対応付けがないことを表しています。 から2つの元への対応付けがあれば、それは同じ元「」としています。
以上より、写像が定義されました。

3.1空写像



最後に、写像について、空集合の場合も考えておきましょう。
が空集合のとき、1つも元の対応付けがない写像「」を考えると、がどのような集合でも、は写像の定義を満たしています。
このような、元の対応付けがない写像「」は、あらゆる集合ごとに1つだけ存在し、「空写像くうしゃぞう」と呼ばれます。 が空集合のときも、空写像「」は存在します。
ちなみに、が空でない集合で、が空集合のとき、すなわち写像「」のときは、の元に対応付ける先の元が存在しないため、写像の定義を満たさず、写像は1つも存在しません。
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