1直積
「直積」とは、基本編第5話で説明した通り、集合「黒白イヌネコ」があったとき、「黒イヌ黒ネコ白イヌ白ネコ」となるような、すべての元の組み合わせを作る演算のことでした。
ここで、「」で囲まれた「黒イヌ」とは、集合とは違うものですが、それが一体何なのかという疑問があるため、以下で厳密に定義しておきましょう。
1.1順序対
任意の集合に対し、「」を、図1-1のように定義します。
この順序対は、のとき、定義から考えて「」より「」が言えますので、とに対する「順序を持たせた組」だと言うことができます。
1.2直積の定義
さて、それでは改めて直積を厳密に定義しましょう。 図1-2のようになります。
つまり、の元との元が作るすべての順序対を集めた集合となります。
2二項関係
それでは、直積を使って写像を定義する前に、準備としてそれらをより抽象化した「二項関係」を定義しておきます(図2-1)。
つまり、直積に含まれる集合を「二項関係」と呼び、二項関係に属することを「-関係がある」といいます。
例えば、整数全体の集合に対し、との直積「」を考えます。 このとき、整数について「」となっているものを全部集めた集合「」は、に含まれていますので、このようなはにおける二項関係になります。
この例において、例えばとの順序対「」はに属するため、とには-関係があります。 このことを「」と書きます。 との順序対「」はに属さないため、-関係がありません。
またこのとき、-関係があるものを列挙すると、「」となっています。 これは、が「である」ことを「である」と見なすことができ、これにより写像「」を定義することに繋がります。
2.1全順序と半順序
二項関係の例を紹介します。
2つの整数について、「が以下であること」、すなわち「」は二項関係になります。 「」となるを集めた集合「」が、に含まれるためです。
このような「」は、図2-2の条件を満たすため、「全順序」と呼ばれます。
例えば、整数があったとき、1つ目の条件は、同じ元に対しては「」が成り立つことを言っています。 2つ目の条件は、「かつのときが成り立つ」と言っています。 3つ目の条件は「かつのときが成り立つ」と言っています。 4つ目の条件は「またはのどちらかが成り立つ」と言っています。 整数における「」はこれらの条件を満たすため、全順序です。
ちなみに、4つ目の条件以外を満たす二項関係を「半順序」といいます。 全順序であれば、必ず半順序です。
例えば、複素数における「」を考えると、「」のときには「」が成り立ち、「」のときには「」が成り立ちますが、「」のときには「」も「」も言えないため、複素数における「」は、全順序ではなく、半順序となります。
2.2同値関係
また、2つの整数について、で割った余りが等しいこと「 」は二項関係になります。 「 」となるを集めた集合「」が、に含まれるためです。
このような「 」は、図2-3の条件を満たすため、「同値関係」と呼ばれます。
この同値関係は、命題の同値とは別のものです。 意味としては同値関係のほうが広いです。
同値関係の例としては、「 」のような整数の合同式以外に、図形の合同、図形の相似、集合の2つの元の一致「」などがあります。
3写像
さてそれでは、いよいよ写像を厳密に定義します(図3-1)。
1つ目の条件は、のすべての元に、写像によるへの対応付けが存在することを意味します。 2つ目の条件は、の同じ元から、の異なる元への複数の対応付けがないことを表しています。 から2つの元への対応付けがあれば、それは同じ元「」としています。
以上より、写像が定義されました。
3.1空写像
最後に、写像について、が空集合の場合も考えておきましょう。
が空集合のとき、1つも元の対応付けがない写像「」を考えると、がどのような集合でも、は写像の定義を満たしています。
このような、元の対応付けがない写像「」は、あらゆる集合ごとに1つだけ存在し、「空写像」と呼ばれます。 が空集合のときも、空写像「」は存在します。
ちなみに、が空でない集合で、が空集合のとき、すなわち写像「」のときは、の元に対応付ける先の元が存在しないため、写像の定義を満たさず、写像は1つも存在しません。