くいなちゃん
2025年9月16日
くいなちゃん

くいなちゃん数学」第2話では、「1+1=2」を通じて、数学の基本と証明の流れを解説します! 第1話から読み進めていることを想定しています。
第1話では、数学の基本的なルールを解説しました。
今回は具体的な公理から1+1=2」を証明していきます。 が、その前に数学の最も基本的な要素である「集合(しゅうごう)」について説明しておこうと思います。 数学では基本的に、「1,2,3」という数をはじめ、ほとんどのものが「集合」でできていると考えます。

1.素朴集合論

1.1集合と元



集合」とは、「いくつかのものを集めたもの」です。 「いくつかのもの」とは曖昧ですが、歴史的にも集合はこのような曖昧な捉え方から始まりました。 最終的には厳密に定義されます。
また、この「いくつかのもの」のことを「(げん)」と呼びます。 そして、集合\bm{X}の中に元aがあるとき、元aは集合\bm{X}に「属(ぞく)する」といい「a\in\bm{X}」と書きます。
集合と元
集合と元
この図では、元bは集合\bm{X}に属しているため、「b\in\bm{X}」です。 一方、元dや元fは集合\bm{X}に属していませんが、このように属していない場合には「d\notin\bm{X}」「f\notin\bm{X}」と書きます。

1.2外延的記法と内包的記法



集合にどのような元が属しているかを表すには2種類の方法があります。 「外延的記法(がいえんてききほう)」と「内包的記法(ないほうてききほう)」です。
外延的記法」とは、集合に属する元を列挙する方法です。 例えば、集合\bm{X}に「イヌ」「ネコ」「ウサギ」の元が属しているとき、外延的記法では「\bm{X}=\{イヌ,ネコ,ウサギ\}」と書きます。
内包的記法」とは、元の性質を記す方法です。 例えば、集合\bm{X}にはすべての動物が属しているとき、内包的記法では「\bm{X}=\{a|aは動物\}」と書きます。 ここではaという記号を使いましたが、好きな記号を使って「\{記号|記号を用いた条件文\}」と書け、その条件を満たすものをすべて集めた集合という意味になります。
外延的記法と内包的記法はどちらを使ってもよく、簡潔に表せるほうが使われます。

1.3含まれると等しい



次に、集合同士の関係について説明します。 例えば「\bm{X}=\{イヌ,ネコ,ウサギ\}」「\bm{Y}=\{イヌ,ネコ\}」であるとき、\bm{Y}の元はすべて\bm{X}の元になっています。 このとき、集合\bm{Y}は集合\bm{X}に「含(ふく)まれる」といい「\bm{Y}\subset\bm{X}」と書きます。
「属する(\in)」と「含まれる(\subset)」は記号も意味も似ていますが、混同しないように注意が必要です。 「属する」は元と集合の関係、「含まれる」は集合同士の関係です。
補足

現代数学ではほとんどのものが集合で扱われるため、一般に集合の元も集合となり、「属する」と「含まれる」の区別はややこしいです。 「集合Xに集合Yが属する」とは、集合Xの元のどれかに集合Yがあることを表し、「集合Xに集合Yが含まれる」とは、集合Xの元に集合Yのすべての元が現れることを表します。

また、集合\bm{X}と集合\bm{Y}元がすべて一致しているとき、集合\bm{X}と集合\bm{Y}は「等(ひと)しい」といい、「\bm{X}=\bm{Y}」と書きます。 等しくない場合は「\bm{X}\neq\bm{Y}」と書きます。 集合の元の並びには順番はなく、また元が重複したときは1つとみなします。 つまり、「\bm{X}=\{イヌ,ネコ,ウサギ\}」「\bm{Y}=\{ウサギ,ネコ,イヌ,イヌ,イヌ\}」のとき、「\bm{X}=\bm{Y}」は成り立ちます。
=」「\neq」の記号は、元同士の比較の際にも使われます。 元aと元bが同じものであれば「a=b」、異なれば「a\neqb」と書かれます。

1.4集合の集合



さて、「ある集合を元とする集合」というものも考えることができます。 例えば、「イヌ」を元とする集合は「\{イヌ\}」となりますが、この集合を元とする集合は「\{\{イヌ\}\}」となります。
例えば、「集合\bm{X}=\{\{イヌ\},\{ネコ\}\}」「集合\bm{Y}=\{\{イヌ\}\}」「集合\bm{Z}=\{イヌ\}」であるとき、「\bm{Y}\subset\bm{X}」「\bm{Z}\in\bm{X}」です。 元と集合の関係なのか、集合同士の関係なのかに注意してください。

1.5和集合と共通部分



第1話の命題の説明で「または(\lor)」と「かつ(\land)」を解説しましたが、集合にもこれと似たものが用意されています。 集合では「または」は「\cup」の記号、「かつ」は「\cap」の記号で表し、集合\bm{X}\bm{Y}に対して「\bm{X}\cup\bm{Y}」「\bm{X}\cap\bm{Y}」のように書きます。
例えば、「甘いもの」を集めた集合\bm{X}が「\bm{X}=\{ハチミツ,砂糖,グレープフルーツ\}」と定義され、「酸っぱいもの」を集めた集合\bm{Y}が「\bm{Y}=\{,レモン,グレープフルーツ\}」と定義されているとしましょう。 このとき、「甘いもの、または、酸っぱいもの」は「\bm{X}\cup\bm{Y}=\{ハチミツ,砂糖,グレープフルーツ,,レモン\}」となり、「甘いもの、かつ、酸っぱいもの」は「\bm{X}\cap\bm{Y}=\{グレープフルーツ\}」となります。
つまり、「\cup」とは集合を結合させるもので、「\cap」とは集合の共通部分を抜き出すものと言えます。

1.6空集合



1つも元が存在しない集合を「空集合(くうしゅうごう)」といい、「\emptyset」の記号で表します。 例えば、集合\bm{X}に元が1つもないとき「\bm{X}=\emptyset」です。 この記号はギリシャ文字の「\phi(ファイ)」に似ていますが、別記号です。
\emptyset」と「\{\emptyset\}」は異なる集合です。 「\emptyset」は元が1つもない集合ですが、「\{\emptyset\}」は「\emptyset」を元とする集合です。

2.自然数

さて、それでは「1+1=2」を証明するために、集合を使って「自然数」を定義しましょう。
自然数(しぜんすう)」とは「0,1,2,3,4,\dots」と延々と続く一連の数のことです。 「0」を自然数に含めるかどうかは流派によって異なります。 現代数学では含めることが多いですが、数論の分野では「ただし0は除く」という但し書きが頻出することになるので含めない場合も多いです。 今回は含めることにします。
自然数全体の集合\mathbb{N}を定義してみましょう。 \mathbb{N}の定義は、例えば「\mathbb{N}=\{0,1,2,3,4,\dots\}」などとすれば十分に思えるかもしれません。 しかしこれは、次に「5,6,7,\dots」と続くことをわたしたちが知っているという前提の上に成り立っていますので、厳密な定義とは言えません。 そこで今回は、自然数の定義として「ペアノの公理(こうり)」と呼ばれるものを採用することにします。
「ペアノの公理」によると、「自然数」とは下記の構造を満たすものをいいます。
ペアノの公理
  1. 0」は自然数である。
  2. n」が自然数ならば、「nの次の数」も自然数である。
  3. n」と「m」が等しい自然数であるとき、かつそのときに限って、「nの次の数」と「mの次の数」は等しい自然数である。
  4. 「次の数」が「0」であるような自然数は存在しない。
  5. 以上で定めたものだけが自然数である。
噛み砕くと、「0」から出発して、「0の次の数は1」「1の次の数は2」のように延々と連ねて、分かれ道やループが無いものを「自然数」と言っています。 この定義の(1)から(5)の内容を図示すると、下記のようになります。
自然数
自然数
(3)や(4)では分かれ道やループをなくし、(5)では「0,1,2,\dots」以外の列をなくしています。 この図から、自然数が「0,1,2,3,\dots」と一本道になるように、それ以外のケースを排除していることが分かります。
さて、このような「構造」を満たすものはすべて自然数と見なすことにします。 重要な点は、「自然数」というものが具体的に存在するのではなく、具体的な何かがこのような「構造」になっているときにそれを自然数と呼ぶことです。 こう捉えることで、様々なものを自然数として扱うことができます。
それでは、集合だけを使って自然数を構築してみましょう。 冒頭で説明した通り、集合は数学の基本的な要素ですので、集合だけで自然数の構造が構築できれば、自然数も数学の要素として扱えるようになります。
例えば、0を空集合「\emptyset」で表し、数nに対して次の数を「\{n\}」で表すと、「\emptyset=0」「\{\emptyset\}=1」「\{\{\emptyset\}\}=2」「\{\{\{\emptyset\}\}\}=3」「\{\{\{\{\emptyset\}\}\}\}=4」としていくことで「0,1,2,3,4,\dots」が定義できます。 これはペアノの公理の各条件を満たしています。 よってこれは自然数であると言えます。
また別の例として、0を空集合「\emptyset」で表し、数nに対して次の数を「n\cup\{n\}」で表すと、「\emptyset=0」「\emptyset\cup\{\emptyset\}=\{\emptyset\}=\{0\}=1」「\{\emptyset\}\cup\{\{\emptyset\}\}=\{\emptyset,\{\emptyset\}\}=\{0,1\}=2」「(中略)=\{0,1,2\}=3」「\{0,1,2,3\}=4」となっていきます。 これもペアノの公理を満たすため、これも自然数であると言えます。
このように、いくつもの方法で集合から自然数が構築できます。 具体的にどの方法で自然数を構築したかは重要ではなく、ペアノの公理を満たしていればどの方法でも構いません。 以後、このように構築された自然数を改めて「\mathbb{N}=\{0,1,2,3,4,\dots\}」という集合で表すことにします。

3.公理的集合論

3.1ラッセルのパラドックス



と、ここまである程度直感的に話を進めてきましたが、このように直感的に集合を扱うと、論理的に破綻することが判っています。 その一つの例が、「ラッセルのパラドックス」です。 ラッセルのパラドックスとは以下の通りです。
まず、単語であるものをすべて集めた集合「単語」を考えてみます。 このとき「単語」自身も単語なので、この集合に属します。 つまり、「単語=\{イヌ,リンゴ,単語,\dots\}」のようになります。
次に、絵文字であるものをすべて集めた集合「絵文字」を考えます。 このとき「絵文字」自身は絵文字ではないので、この集合には属しません。 つまり、「絵文字=\{🙂,⭐️,👻,\dots\}」のようになります。
このように考えると、集合とは2つのタイプに分けられ、この「単語」のように「自分自身が属する集合」と、この「絵文字」のように「自分自身が属さない集合」が存在することになります。
ここで、「自分自身が属さない集合」をすべて集めた集合を考えてみましょう。 つまり「絵文字」は「自分自身が属さない集合」でしたので、「自分自身が属さない集合=\{絵文字,\dots\}」となります。 さてこのとき、この集合には自分自身が属するでしょうか。 すなわち、「自分自身が属さない集合=\{絵文字,自分自身が属さない集合,\dots\}」となるでしょうか。
仮に自分自身が属するとした場合、「自分自身が属さない集合」なのに属しているので矛盾しています。 また仮に自分自身が属さないとした場合、「自分自身が属さない集合」という条件を満たしているので、この集合に属するべきとなって矛盾することになります。
第1話で説明した通り、命題は真か偽かのいずれかである必要があるため、このような問いは命題になりえません。 つまり「自分自身が属さない集合をすべて集めた集合」のような集合を認めてしまうと、論理的破綻を招くのです。

3.2公理的集合論



そこで、集合を「ものの集まり」のような直感的な定義ではなく、何が集合であるかを厳密に定めた「公理」によって集合を定義する流れが生まれました。 これは「公理的集合論(こうりてきしゅうごうろん)」と呼ばれます。 直感的なほうは「素朴集合論(そぼくしゅうごうろん)」と呼ばれます。

4.加算の公理

それでは、いよいよ最後に「1+1=2」を証明してみましょう。 ここまでで定義した自然数に対して、以下の公理を追加します。
加算の公理

a,bが自然数であるとき、

  1. a+0=a
  2. a+b'=(a+b)'

ただし自然数nに対し「n'」とは、「nの次の数」を表す。

これを、「加算(かさん)の公理(こうり)」といいます。 この公理を使うと「1+1=2」が証明できます。 以下の通りです。
1+1=2の証明
  • 以下、「1+1」を変形して「2」にしていく。
  • 自然数の定義より、1+1=1+0'(「0′」、すなわち0の次の数は、自然数の定義で1と定義していました。)
  • 加算の公理2よりa+b'=(a+b)'なので、1+0'=(1+0)'
  • 加算の公理1よりa+0=aなので、(1+0)'=(1)'
  • 1の次の数は2なので、(1)'=2
  • よって、1+1=2。(証明終)
加算の公理を機械的に適用していくだけで、「1+1」から「2」が導出できています。 同様に「1+2=3」「128+256=384」なども証明できますので試してみてください。
今回は、集合を使って自然数を定義し、加算の公理を用いて「1+1=2」を証明しました。 次回は、自然数に負の数を含めた「整数」をはじめとするさまざまな数をお話します!
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