くいなちゃん
2025年9月16日
くいなちゃん

くいなちゃん数学」第1話では、数学のルールや慣習を解説します!

1.公理と定理と証明

数学では、大まかには、正しいとするいくつかの前提から出発して、正しいと言えるものを論理的に導出していきます。 これらのあらかじめ決めておいた正しい前提のことを「公理(こうり)」といいます。
そして公理の他にもいくつかのルールが定義され、数学では公理とこれらのルールを使って次々と正しいことを導出していきます。
公理と定理と証明
公理と定理と証明
新しく導出された正しいことを、公理と合わせて「定理(ていり)」と呼び、定理を導出する過程のことを「証明(しょうめい)」といいます。
別の見方をすると、数学の問題を解くこととは、今までに導出された定理を使って、いかにその問題の答えが定理になるかという証明を見つける作業になります。

2.命題と論理式

さて、「1+1=2である」「2+2=5である」のような、定理であるかどうかを判断しうる対象のことを「命題(めいだい)」といいます。
命題の扱い方にはいくつかの方法がありますが、ここでは解りやすく論理式の「真(しん)」と「偽(ぎ)」を使って、「命題が定理であることを『真』、定理でないことを『偽』」と表すことにします。 例えば、「1+1=2である」という命題が定理であれば、「1+1=2である」は「真」です。 「2+2=5である」という命題が定理にならなければ、「2+2=5である」は「偽」です。
命題と定理
命題と定理
補足

このように、真と偽を扱った式のことを「論理式」と言います。 今回は、命題が定理かどうかを表すのに論理式の真偽を使うことにしましたが、命題が定理かどうかを他の方法で表すこともできます。 例えばその一つに、「トートロジー」という常に真になる命題を、定理とする考えもあります。

このとき、命題たちを「p」「q」などの文字で表すことにします。 そして、「pならばq」や「pかつq」のように、これらを組み合わせて新しい命題を作ることを考えます。
例えば、pが「1+1=2である」という命題で、qが「2+2=5である」という命題であれば、「pまたはq」とすることで、「1+1=2である、または、2+2=5である」という命題が作れます。
命題の作成
命題の作成
通常、「または」は「\lor」の記号、「かつ」は「\land」の記号で表し、「p\lorq」「p\landq」のように書きます。 つまり、「1+1=2または2+2=5」という命題は、「(1+1=2)\lor(2+2=5)」と書けます。
ところで、「pまたはq」とは、pqどちらかが真なら真という意味です。 例えば「1+1=2または2+2=5」という命題が真だとすると、「1+1=2」と「2+2=5」のどちらか一方が真であることを意味します。 つまり「p\lorq」の結果は、次の表のようになります。
論理和の結果
p q p\lorq
一方、「pかつq」とは、pq両方とも真なら真という意味です。 つまり「p\landq」の結果は、次の表のようになります。
論理積の結果
p q p\landq
例えば「1+1=2」が真、つまり定理であり、「2+2=5」が偽、つまり定理でないとしましょう。 このとき、「(1+1=2)\land(2+2=5)」は「真かつ偽」で偽となり、つまり定理ではありません。
補足

正確には、論理式の「または」や「かつ」を使って作られた命題が真なら、それは定理であると、ここでは決めたことになります。 以降も同様に、論理式で真になるものは定理であると決めていきます。

3.論理式の性質

ここからは、定理を証明するときに必要となる、論理式のいろいろな性質について説明します。

3.1否定と排中律と矛盾



1+1=2である」という命題に対し、「1+1=2ではない」という否定の命題を表すときには、「\neg」の記号を使います。 命題pに対し「pではない」ことを「\negp」と書き、そのときの結果は次の表のようになります。
論理否定の結果
p \negp
この表から、どんな命題pであっても「p」か「\negp」のどちらか一方は真、つまり定理になることが解ります。 つまり「p」も「\negp」も定理でないような命題はありません。 この「p\negpも定理にならないような命題は存在しない」という法則を「排中律(はいちゅうりつ)」といいます。
また一方で、「p\negpも定理である」ことを「矛盾(むじゅん)」と言います。 この表から、矛盾を引き起こす命題は存在しないことも解ります。
排中律と矛盾を組み合わせると、「pが定理であるとすると矛盾する、よって\negpが定理である」のように、わざと矛盾を引き起こすことでその否定を証明することもできます。

3.2論理包含



論理式のその他の記号として、「pならばq」を意味する「p\Rightarrowq」があります。 これは、「pが成立するとき、qが成立する」という命題になります。
論理包含
論理包含
p\Rightarrowq」という命題が定理であることは、「pが真」のときには常に「qも真」になることを意味します。
このとき、「pが偽」のときには、qはどうなっていても構いません。 つまり「pが偽」のときには、qが何であっても「p\Rightarrowq」が定理であることは覆らないため、このとき「p\Rightarrowq」は真だといえます。
つまり「p\Rightarrowq」のpが偽の場合、qが真でも偽でも「p\Rightarrowq」は真になります。 次の表のようになります。
論理包含の結果
p q p\Rightarrowq
例えば、「n=1、ならば、nは奇数である」という定理があったとき、n1でない場合については何も言っていないので、n1でない場合にはnが偶数でも奇数でもどうであってもこの定理が覆ることはありません。 よって、「偽、ならば、…」のときは、この命題は常に真になるべきだと理解できます。

3.3同値な命題



さて、命題p,qの真偽が常に一致するとき、pqは「同値(どうち)」といい、「p=q」と書きます。
もしpが定理のときqが定理になり、そしてqが定理のときpが定理になるなら、それはpqは真偽が一致していると言えるため、pqは同値です。 つまり論理式で書くと、「(p\Rightarrowq)\land(q\Rightarrowp)」のとき、pqは同値です。 このため、「p=q」は「p\Leftrightarrowq」という記号で書かれることもあります。
pqが同値なら、どちらかを証明しただけで、もう一方も証明したことになります。 「p=q」の結果は、次の表のようになります。
同値
p q p=q

3.4逆と裏と対偶



p\Rightarrowq」という形の命題があったとき、pqを反対にした「q\Rightarrowp」を「(ぎゃく)」の命題といいます。 また、pqに否定を付けた「(\negp)\Rightarrow(\negq)」を「(うら)」といい、逆と裏の両方になった「(\negq)\Rightarrow(\negp)」を「対偶(たいぐう)」といいます。
逆と裏と対偶
逆と裏と対偶
このうち特に対偶が重要で、対偶は元の命題と同値となります。 例えば「n=1、ならば、nは奇数である」という命題に対し、対偶は「nは奇数でない、ならば、n=1でない」ですが、この2つの命題は同値となります。
つまり命題を証明したいとき、元の命題を証明せずに対偶のほうの命題を証明することで、元の命題の証明ができます。

3.5ド・モルガンの法則



また重要な法則として、「ド・モルガンの法則(ほうそく)」があります。
ド・モルガンの法則とは、「\neg(p\landq)」と「(\negp)\lor(\negq)」が同値になり、「\neg(p\lorq)」と「(\negp)\land(\negq)」が同値になるという法則です。 かみ砕くと、「\neg(\dots)」の括弧を外したときに、中身の「\land」と「\lor」が入れ替わり、「\neg」が分配されるという法則です。
例えば、「『nは偶数かつn10以上』でない」という命題は、「nは偶数でないか、n10以上でない」ということと同じになります。 また、「『nは偶数またはn10以上』でない」ということは「nは偶数でなく、n10以上でもない」ということと同じになります。
複雑な命題を変形して整理したいときに役立ちます。

4.命題関数

より多彩な定理や命題を扱うために、もう少し論理式について踏み込んでいきましょう。
外から値を受け取ると命題になるものを「命題関数(めいだいかんすう)」といいます。 例えば「a+b=2である」という記述に対し、a1b3を代入すると「1+3=2である」という命題になりますので、「a+b=2である」は命題関数です。
命題関数
命題関数
命題関数には「1」「3」などの具体的な値の他に、「すべての値」や「ある値」というものを入れることができます。 これらは「x」「y」などの文字の前に「\forall」「\exists」の記号を付けることで、それぞれ「すべての値」「ある値が存在する」を表します。
例えば、「a=1である」という命題関数に、\forallxで囲んでaxを代入して「\forallx(x=1である)」のように書くと、「すべての値xに対してx=1である」という命題を表します。 同様に、\existsyで囲んでayを代入して「\existsy(y=1である)」のように書くと、「y=1であるようなある値yが存在する」という命題になります。
命題関数の例
命題関数の例
具体例として、「a+b=2」という命題関数があり、ab1を入れた命題「1+1=2」は真で、a1b3を入れた命題「1+3=2」は偽であるとしましょう。
このとき「1+3=2」があるため、すべてのabに対して「a+b=2」が真になるわけではありません。 よって「\forallx(\forally(x+y=2))」は偽となります。 また「1+1=2」があるため、「a+b=2」が真になるようなabは少なくとも存在しています。 よって「\existsx(\existsy(x+y=2))」は真となります。

5.直観主義論理

最後に、「直観主義論理(ちょっかんしゅぎろんり)」と呼ばれる、これまでとは異なる考え方を簡単に紹介しておきます。
これまでは、命題p\negpがあったときに少なくとも一方は定理であるとする「排中律」を前提としていましたが、直観主義論理ではこの排中律を使いません。 つまり、「あなたは数学が好きかどうかは判らないが、あなたは数学が好きか好きでないかのどちらかだ」とこれまでの論理では言えましたが、直観主義論理ではこれすらも言えず、「あなたは数学が好きか好きでないかのどちらかである、かどうかも判らない」となります。 証明できるかどうか判らないという可能性を考慮しています。
排中律を前提にしないと、多くの定理が証明できなくなってしまうため、数学の多くの分野では直観主義論理は主流ではありませんが、論理自体を対象とする分野や計算機科学などでは直観主義論理との親和性が高くよく使われます。
今回は、数学の基本的なルールを説明しました。 次回は実際に、具体的な公理から定理を証明してみましょう!
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