今回は、第5話で解説した「距離空間」を使って、「」を説明します。
1点列の極限
1.1点列の収束
まず、という写像を考えます。 このとき、1次元ユークリッド空間で考えると、が大きくなるほど、ととの距離「」は小さくなります。 例えば、のとき、なので、のようにかなり小さいです(表1-1)。
では、この距離はどこまで小さくなりますでしょうか。 としたとき、このよりも小さくなりますでしょうか。 例えばこの場合、極端になどとすると「」となることは明らかです。 がさらに小さくなっても、をさらに大きくすれば「」となるでしょう。
このように、どんなに小さな(ただしよりは大きい)が指定されても、を大きくすれば、より大きいすべての自然数に対しとできるとき、「はに収束する」といい、「」と表します(図1-1)。
先ほどの、という写像の例では、「はに収束する」つまり「」になります。
「」のを限りなく小さくできるということは、直観的には「が限りなく大きくなるとき、はに限りなく近づく」と考えることもできます。
また、この「」という数式は、「が限りなく大きくなるときにが限りなく近づく値」ということを表していますが、「」自体と「」とが等しくなるとは限りません。 実際、、といくら続けても、「」になることはありません。 あくまで「限りなく近づく値」です。
ちなみに「」という数に関して説明すると、、と続けたときに、が収束する値が「」と表現されています。 はに収束するため、これはに等しい「」です。
以上が「」の解説です。
1.2点列の発散
さて、ついでにが収束しない場合についても解説しておきましょう。 を限りなく大きくしてもがどの実数にも収束しないとき、は「発散する」といいます。 発散には、「正の無限大に発散する」「負の無限大に発散する」「振動する」の3種類があります(図1-2)。
図のように、どんなに大きな実数が指定されても、を大きくすれば、より大きい任意の自然数に対しとできるとき、は「正の無限大に発散する」といい、「」と表します。 直観的には、「が限りなく大きくなるとき、が限りなく大きくなる」と言えます。
同様に図のように、どんなに小さな実数が指定されても、を大きくすれば、より大きい任意の自然数に対しとできるとき、は「負の無限大に発散する」といい、「」と表します。 直観的には、「が限りなく大きくなるとき、が限りなく小さくなる」と言えます。
これ以外の場合、は「振動する」といいます。 収束せず、やへの発散もしないということは、は増減を繰り返しているに違いないため「振動」と表現されています。
以上のように、を限りなく大きくしたときのの向かう先を、の「極限」といいます。 極限をまとめると、表3-2のようになります。
が限りなく大きくなるときの | の極限 | 数式での表現 |
---|---|---|
はaに限りなく近づく | に収束する | |
は限りなく大きくなる | 正の無限大に発散する | |
は限りなく小さくなる | 負の無限大に発散する | |
それ以外 | 振動する | (なし) |
2冪
さて、この「極限」を使うと、実数における「(累乗)」を拡張することができます。
累乗とは、「」のように、と以上の整数に対し「を回掛けた数」のことでした。 このを「」のように、任意の実数に拡張することを考えます。
このように任意の実数に対して拡張された「」のことを、「冪」といいます。
2.1負の数の冪
まずは、「」のような、負の数での冪を定義します。 図2-1のように、の「」が減るごとに「」は倍されますので、が負の数のときもその延長で「」、「」、…、と自然に定義できます。
これを一般化して、「」と定義します。 例えば、「」です。
2.2有理数の冪
次は、「」のような、有理数の冪を定義します。
「」から分かる通り、一般に「」という法則が成り立ちます。 ここで「」を考えると、「」となり、これは「」を回掛けた数が「」になることを意味します。 そして回掛けた数がになる数とは「」のことなので、「」の値は「」といえます。 同様に、「」「」です。
これを一般化して、「」と定義します。 「」とは、以前説明した通り「乗するとになる負でない数」です。 例えば、「」です。
また、「」から分かる通り、一般に「」という法則が成り立ちます。 よって「」という有理数の冪を考えると、「」とすることで、これまでに説明した内容を使って計算できる形になります。 つまりあらゆる有理数に対して「」が計算できることが解ります。
2.3無理数の冪
それでは、「」のような、無理数の冪を定義します。
以前説明した通り、「」とは「」と延々と続く無理数であるため「」はここまでの冪の定義では計算できません。 そこで「」という、の小数点以下第桁目を切り捨てる写像を「」としたときの、「」の値を考えることにします。
このとき、以前説明した通り「循環する小数は有理数である」ため、の小数点以下第桁目を切り捨てた「」は有理数となるので、任意のに対して「」がこれまでの方法で計算できることになります。
そこで、このを限りなく大きくしたときにが限りなく近づく実数を、「」の値とみなすことにするわけです。 つまり、「」と定義します。
のを大きくしていくと、表2-1のように「」となることが解ります。
限りなく大きい | 限りなくに近づく |
これを一般化して、任意の無理数に対し「」は、の小数点以下桁目を切り捨てた数をとして「」と定義します。
以上により、(一部を除く)任意の実数に対して「」が定義できました。
2.40の0乗
ただし、以前説明した通り「」は定義されないことがあります。 なぜなら、、と考えるとはに収束しますが、、と考えるとはに収束するため、近づき方によっては1つに定まらないからです。
また、「」の値が実数にならない場合も「」は定義できません。 例えば、「」は「」となりますが、「」は実数ではないため(2乗して-1になる数は実数に存在しない)定義しません。
3数列と級数
最後に、「数列」と「級数」について説明しておきます。
3.1数列
「数列」とは、のように、数が並んでいるもののことです。 から順に数だけを並べて、例えば「」などと表記することが多いです。 数が有限個の数列を「有限数列」、無限個の数列を「無限数列」といいます。
有名な数列には、「」のように隣り合う数の差が一定で並ぶ「等差数列」や、「」のように隣り合う数の比が一定で並ぶ「等比数列」、「」のように前2つの数の和が次の数になっている「フィボナッチ数列」などがあります。
3.2級数
「級数」とは、数列の各数を足し合わせたものです。 例えば、「」という数列に対する級数は「」です。 有限数列に対する級数は「有限級数」、無限数列に対する級数は「無限級数」といいます。
「」という数列に対する級数は、しばしば簡潔に「」と表されます。 「」は「シグマ」というギリシャ文字の記号です。 の下に「」と書き、上に「」と書くと、の右に書いた式をがからまで順に足し合わせる意味になります。 つまり「」です。
例えば、「」という数列は、「」と表せますので、これに対する級数は「」です。
3.3級数に関する定理
級数には、数列を順に足さなくても瞬時に結果が求められる便利な定理がいくつもありますので、代表的なものを紹介します。 特に、無限級数においては無限に数列を足し合わせることは不可能なので、これらの定理と極限を組み合わせて「」のように求めます。
まずは単純な、の級数の計算です。 例えばがの場合、という数は、両端をペアにして入れ替えるととなり、であることが分かります。 この方法を使うと、一般には、で計算できます。 整理してまとめると、「」となります。
の級数の計算は、証明はややこしいため結果だけ書くと、となります。 の級数の結果は、です。
一般的な等差数列に対する級数「」は、で求まります。 例えば、の数列に対する級数は、なので、です。
一般的な等比数列に対する級数「(ただし)」は、で求まります。 例えば、の数列に対する級数は、なので、です。
3.4無限級数の問題
それでは、無限級数の問題を解いてみましょう(図3-1)。
無限に足し続ける必要があるため、等比数列に対する級数の式「」のを限りなく大きくして、「」で求めます。
の絶対値が未満のとき、が限りなく大きくなるとがに近づくことを利用すると、「」となります。 この式に問題のを代入して、「」が答えです。
今回は、極限、冪、数列、級数について説明しました。 次回は、この極限を使って図形の接線の傾きを求める「微分」について解説します!