
物理学とは大まかに言うと、この世界の法則を、数学で表そうとする学問です。 このため、数学で扱えない世界法則は別の学問に任せたり、数学的に得られたことでもこの世界と一致しなければ正しいと見なされなかったりする特徴があります。
物理学が理解できないケースの多くは、数学が理解できていないことに原因があると思います。 まずは「6さいからの数学」などで数学の基本を理解してから臨むと良いでしょう。 一緒に頑張りましょう!
1ニュートン力学
物理学を使って「リンゴを落とすと何秒後に地面に着くか」を求めたい場合、リンゴ内の全原子の運動を逐一計算していてはきりがないため、多くの場合はリンゴ全体を1つの点と見なして点の運動として計算します。
このように物理学では、原子やリンゴや天体などのすべてを1つの万能な計算式で扱うのではなく、計算したいことに応じて、無視できるものは無視した近似式を使って物事を扱います。 このため、物理学は扱いたい対象に応じていくつかの分野に分かれています。
今回は、物体を点に近似して運動を扱う、「ニュートン力学」という分野について解説します。
1.1質点
例えば、リンゴも本も隕石も、単純に見れば運動のしかたにはそこまで違いがありません。 そこでニュートン力学では、単純化のために、物体を「質点」と呼ばれる単なる点とみなして計算する方法が確立されました。 点とみなすことで計算が簡単になるわけです。
この質点は、「位置」と「質量」を持ち、また位置は時間によって変動します(図1-1)。

質点の質量は1つの実数で表されますが、位置は2次元なら



、3次元なら





のように複数の実数になります。 このため質点の位置はベクトルで表されます。












質点の位置は時間によって変動するため、時間を受け取って位置を返す関数だといえます。 つまり、時間を
という実数で表すと、時間を受け取って位置のベクトルを返す関数は


などと表せます。
の記号を使っていますが、もちろん
軸だけという意味ではなく、2次元の場合は














です。 例えば、時間
が
のときに位置が







の場合、












となります。
















































1.2速度と加速度
位置が時間によって変動する関数なら、これを微分することで「速度」や「加速度」が導けます。 時間を
、位置を


とすると、速度
、加速度
はそれぞれ

























となります。


































物理学では、時間で微分することを、変数の上に点を付けて表します。 1階微分は点を1つ付けて、例えば「
」のことは「
」と表します。 2階微分は点を2つ付けて、例えば「
」のことは「
」と表します。






2単位と有効数字
2.1単位
さて物理学では、扱う量に単位を考えます。 長さの単位は「メートル」、質量の単位は「キログラム」など、日常でも使うため細かく説明しませんが、SI(国際単位系)と呼ばれる定義によって各単位は厳密に定められています(表2-1)。
名前 | 記号 | 説明 |
---|---|---|
メートル | ![]() |
長さの単位 |
キログラム | ![]() ![]() |
質量の単位 |
秒 | ![]() |
時間の単位 |
アンペア | ![]() |
電流の単位 |
ケルビン | ![]() |
温度の単位 |
モル | ![]() ![]() ![]() |
物質量の単位 |
カンデラ | ![]() ![]() |
光度の単位 |
速度の単位は、単位時間あたりに進む長さですので、メートルを秒で割った「

」で表されます。 加速度は、単位時間あたりの速度の変化量ですので「


」です。







物理学でよく使う単位には他にもいろいろあります。 例えば「
(ニュートン)」は力の単位で、「
」は「

の物体に



の加速度を生じさせる力」と定義されています。 式で書くと「









」です。






















また、光速を
と定義する単位系など、扱う対象によって便利な単位系が使い分けられることもあります。

2.2有効数字
物理学や工学では、数学的に計算する値だけでなく、実験をして測定した値も扱うため、数値がどのくらいの精度で信頼できるかを常に意識します。 信頼できる桁の部分を「有効数字」といい、例えば「1234」という数の有効数字は4桁です。
小数点以下にゼロが並ぶ場合、どこまでが信頼できる桁なのかを示すために「
」を明記します。 例えば「
」と書くと有効数字は1桁ですが、「


」と書くと有効数字は3桁になります。






複数の値を計算するときには、有効数字の精度が悪いほうに合わせて、結果の有効数字を算出します。 例えば「








」を計算する場合、有効数字の精度が悪い「

」を考慮して「












」とします。



























3ニュートンの運動の法則
さて、ニュートン力学では、「運動の法則」と呼ばれる3つの原則を前提とします(図3-1)。
- 力が作用しない限り、質点は静止または等速直線運動を続ける。(慣性の法則)
- 質点に働く力を
、質点の質量を
、質点の加速度を
とすると、
が成り立つ。(運動方程式)
- 2つの質点において互いに力が働くとき、その2つの力の大きさは等しく、互いに逆向きである。(作用・反作用の法則)
この法則を使うことで、物体の運動が計算できるようになります。 手順としては、まずこれらの法則を満たすように2つ目の


の方程式を作り、あとは解くだけです。 以下、具体的な問題で確認しましょう。




3.1単純な例
図3-2の問題を解きます。
問題
なめらかな床の上で静止していた質量の物体を、
の力で引っ張り続けたとき、
秒間に何
進むか。
図示すると、図3-3のようになります。

運動方程式「


」にこの問題を代入すると、「









」になります。 単純化のため、空気抵抗や床との摩擦は考えないことにします。 また今回は水平方向の1次元だけを考えるため、ベクトルの式


を、実数の式


としています。























あとはこの「









」を解けば、答えが求まります。 前述の通り

なので、この式「









」は方程式に微分が含まれる「微分方程式」になります。 「









」を見ると、簡単な式に感じるかもしれませんが、丁寧に解くと案外ややこしく図3-4のようになります。




































を解く。
より、式は
と表せる。
- 両辺を
で割ると、
。 以下、単位を割愛して計算する。
- 両辺を
で積分して、
。
- 積分を計算して、
(
は任意定数)。
- 整理して、
(
は任意定数)。
のときに物体が静止している(
)という条件から、
より
が分かる。 つまり
。
を同様に、両辺を
で積分して
、積分を計算して
。
- 整理して
を定義しなおして
。
のときの物体の位置を
と考えると、
より
が分かる。 つまり
。
秒後の位置を考えると、
を代入した
となるので、
が答え。
丁寧に計算したので大変そうに見えますが、実際にはこのような加速度が一定で直線に進む運動は「等加速度直線運動」と呼ばれ、位置を
、初速度を
、時間を
、加速度を
とすると「








」という公式で表されます。 これは先ほどの計算結果を公式にしただけなので、中身は同じです。















先ほどの問題をこの公式に当てはめてみます。 初速度は





、時間は


、加速度は









より








なので、これらを公式の「








」に代入すると、「






























」となって先ほどの計算結果と一致します。










































































微分方程式は毎回解くのが大変なので、このように典型的な運動は結果だけ公式化してよく使われます。
今回は、ニュートンの運動の法則を紹介し、物理学の基礎的な問題を実際に解いてみました。 基本的には同様の手順で、身の回りの多くの運動が計算できます。 次回はこの方法を使って、典型的な運動のパターンとその解き方を紹介します!