Kuina-chan

くいなちゃん2019年07月24日


6さいからの数学」第12話は、基本編の最終回です。 点と点の距離は無視して繋がり方だけに着目することで、ゴムのように伸び縮みする立体が扱える分野を説明します!

1位相

1.1開集合



第11回までは、図形を扱うときにはなどの上の「点」に着目して考えていました。 そして、点と点がどれだけ離れているかを一般化して「距離」と呼び、第5回で詳しく説明していました。
一方でという集合は、点がぎっしりと詰まっていますので、点よりも領域に着目して考えたほうが、図形の巨視的な性質が見えることがあります(図1-1)。
点と開集合
図1-1: 点と開集合
図の赤く塗られた領域は点が詰まっていますが、このような領域があれば、例えば点と点の繋がり方など様々な性質が定められます。 そこでこの領域、正確には領域の縁を含まない内部を「開集合かいしゅうごう」と呼び、この開集合を集めた「位相いそう」という構造を考えることにします。
「位相(phase)」という言葉は周期関数でも使われますが、今回説明する「位相(topology)」はそれとは無関係で単に開集合を定めたものです。

1.2位相空間



開集合と位相の厳密な定義は、抽象的で分かりにくいですが図1-2の通りです。

空集合でない集合に対し、集合が以下を満たすとき、の位相といい、の元を開集合という。

  1. のすべての元はの部分集合である。
  2. 自体と空集合もに属する。
  3. から任意の有限個の元を取り出したとき、それらの共通部分に属する。
  4. から任意の元を集めたとき、それらの和集合もに属する。
図1-2: 開集合と位相の定義
それでは先ほどの上の領域の、境界部分を含まない内部を「開集合」と呼んだとき、上記の定義を満たすことを確認しましょう。
まずこの「」は定義のに相当します。 そしてのすべての領域内部を集めた集合が位相です。 つまり、「中心、半径の円の内部」で囲まれた部分の内部」といった感じで、位相を構築します。
これらの領域は、繋がっていなくても構いません。 つまり図1-3のような領域がに属し、自体と空集合もに属すとします。
いろいろな開集合
図1-3: いろいろな開集合
このとき、から有限個の開集合を取り出すと、それらの開集合の重なっている部分の領域もに属する開集合になることが分かりますし、から任意の開集合を取り出すと、それらを足し合わせた領域もに属する開集合になることが分かると思います。
以上より、このようなは先ほどの位相の定義を満たします。 集合と位相をセットにしたもの「」を「位相空間いそうくうかん」と呼びます。

1.3点の繋がり方



集合に位相が定義されるということは、元の繋がり方が定義されることとも見なせます。 例えば先ほどを定義したことにより、の点同士の繋がり方が決まります。
先ほどのの点を含むような開集合を考えると、それがどれだけ小さな開集合だったとしても、に近いところにある点が1つはこの開集合に含まれてしまいます。 この開集合に含まれる点がだけになることはありません。 つまりは近くの点と連続して繋がっていて、孤立していないといえます。
このような繋がり方は、別の位相を考えると変わってきます。 これまで説明した「境界部分を含まない内部」を開集合とみなすような位相のことはよく「通常位相」などと呼ばれます。 以下で通常位相以外の位相の例を紹介します。

1.4密着位相



まず、集合において、という集合を考えると、このの位相となります。 とは空集合です。 このが先ほどの位相の定義を満たすことは明らかです。
この位相は、開集合がしかないということですから、直感的に考えると、適当に開集合を囲んだときに、の全部の点がその開集合に入るか、どの点も開集合に入らないかしかないということです。 これは、2つの点が別の開集合になるように囲めないことを意味しますので、言い換えると、全部の点が1箇所に集まっているような繋がり方だといえます。
このように集合全体と空集合しか属していない位相を「密着位相みっちゃくいそう」といいます。

1.5離散位相



今度は逆に、集合においてすべての部分集合を集めたを考えます。 という感じです。 このも先ほどの位相の定義を満たします。
この位相には、どの点に対してもその点だけを含む開集合が存在します。 もし隣の点と連続して繋がっていたら1点だけを開集合で囲んで分離できないはずなので、この位相は全部の点がばらばらになっている繋がり方だといえます。
このようにすべての部分集合を集めた位相を「離散位相りさんいそう」といいます。

1.6いろいろな集合の位相



さてここまでは、2次元の無限に広がる平面での位相を確認しましたが、他にもいろいろな集合で位相空間を考えることができます。
例えば、3次元の無限に広がる空間内の「閉じた曲面の境界部分を含まない内部」は、同様に開集合の定義を満たし、通常位相の位相空間になります。 また1次元に無限に広がる直線上の「境界部分を含まない区間」も、通常位相の位相空間になります(図1-4)。
位相空間の例
図1-4: 位相空間の例
他にもこの図のように、空洞のトーラス(ドーナツの形)や球面などを考えると、その表面上に描いた「閉じた曲線の境界部分を含まない内部」は開集合の定義を満たし、通常位相の位相空間になります。

2同相

さて、位相空間同士の対応関係を考えて、位相の構造を維持するように図形を変換していくと、まるでゴムのように伸び縮みするような立体を扱うことができます(図2-1)。
位相空間同士の変換
図2-1: 位相空間同士の変換
この図では、ドーナッツ上の開集合が変換後でも必ず開集合になるという条件で変換していったところ、ドーナッツの形がコーヒーカップの形に変換できています。
このように、2つの位相空間の間で位相の構造が維持されているとき、この2つの位相空間は「同相どうそう」であるといい、の記号で表します。 厳密な定義は図2-2の通りです。

位相空間からへの写像のうち、以下を満たす写像が存在するとき、これらの位相空間は同相であるという。

  1. は全単射である。
  2. の任意の開集合に対し、である。
  3. の任意の開集合に対し、である。
図2-2: 同相
この定義は要するに、2つの位相空間の間で開集合や点の関係を維持して変換できるとき、2つの位相空間は同相だと呼んでいます。
また、同相な位相空間のあいだで、ある性質が必ず維持されるとき、その性質のことを「位相不変量いそうふへんりょう」といいます。 例えば、同相な位相空間の間では「穴の数」は等しく、位相不変量の1つとなります。 先ほどのドーナッツとコーヒーカップでも、穴の数が1個であることが維持されています。
このようにゴムのように伸び縮みさせて変換できる位相空間は、しばしば軟らかい図形を扱う分野へ応用されます。

3位相不変量の例

位相不変量の例をいくつか紹介します。

3.1図形の穴



トーラス(ドーナツの形)には穴が1つありますが、このような「あな」の数は前述の通り位相不変量であることが知られています。 ただし穴とは点が存在しない部分ですので、穴を数学の言葉で直接説明することは難しく、実際には穴を間接的に扱うことになります。
例えば、立体の表面に任意の輪を作り、その輪を連続的に縮めていくと必ず1点に縮まるとき、その立体には穴が無いと考えることができます。 球面の輪は必ず1点に縮まりますが、トーラスの場合は全体を1周するような輪は穴が邪魔で1点に縮まりません。
2つの輪が、連続的な変形で互いに重なるとき、同じ種類の輪と見なすとします。 このとき、立体に何種類の輪が存在するかによって、穴の数を間接的に扱うことができます。 このように、立体に存在する輪の種類を集めたものは「ホモトピーるい」と呼ばれ、位相不変量の1つです。

3.2連結とコンパクト



他の位相不変量として、「連結性れんけつせい」や「コンパクトせい」などがあります。
連結れんけつ」であるとは、直感的には図形が1つの図形として繋がっていて、複数の部分に切り離されていないことです。 より厳密に定義すると、位相空間「」において、空でない2つの開集合かつを満たすものがあれば、この位相空間に切り離されていることになり、そのような2つの開集合が存在しなければは「連結」であるといいます。
また「コンパクト」であるとは、直感的には図形が無限に広がっていないことです。 厳密に定義すると分かりにくいですが、位相空間「」において、開集合の和集合がと一致したときに、必ずそれらの開集合から有限個を取り出して和集合がと一致するようにできるとき、位相空間「」は「コンパクト」であるといいます。 図3-1のイメージです。
コンパクト
図3-1: コンパクト
この図では、トーラスの表面にいくつか開集合が集まって、それらがトーラス全体を覆っている状況を表しています。 このような開集合が与えられたときに、必ずそれらの開集合から有限個を取り出してトーラス全体を覆うことができるとき、このトーラスは「コンパクト」だといえます。 言い換えると、有限個の開集合で覆い尽くせないほど無限に図形が広がっていると(など)、コンパクトではなくなります。
「連結性」や「コンパクト性」は位相不変量なため、「穴」の数と同様、同相な位相空間の間の変換で保たれます。

4結び目理論

最後に、位相空間の応用例を紹介します。
位相空間を応用した分野はいろいろありますが、その一つは「むす目理論めりろん」です。 複雑に絡まったヒモでできた輪が与えられたとき、それを変形して別の輪にできるかどうか、結び目のパターンはどう分類できるかなどを研究する分野です(図4-1)。
結び目理論
図4-1: 結び目理論
図の左のヒモは、切り貼りせずに右のヒモに変形できますが、論理的に説明しようとすると難しいことが分かります。
ちなみに同相になるように変換しただけでは、ヒモ同士がすり抜けるような変換が許容されてどんな結び目も変換できてしまうため、結び目理論では同相に加えてすり抜けられないような制約を課します。
以上で、全12回にわたる「6さいからの数学」の基本編はおしまいです。 ここまで証明や厳密な定義を割愛しつつ、概念の分かりやすさを優先して説明した箇所が多かったため、今後は徐々に数式や厳密な定義に慣れて理解を深めると良いでしょう。 お疲れ様でした!
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