Kuina-chan

くいなちゃん2018年12月11日


6さいからの数学」第2話では、具体的な公理から「1+1=2」を証明します!

今回は具体的な公理から「」を証明していきますが、その前に数学の最も基本的な要素である「集合」について説明しておこうと思います。

1素朴集合論

1.1集合と元



集合しゅうごう」とは、「いくつかのものを集めたもの」です。 このいくつかのもののことを「げん」と呼びます。 そして、集合の中に元があるとき、元は集合に「ぞくする」といい「」と書きます(図1-1)。
集合と元
図1-1: 集合と元
またこの図のように元が集合に属していない場合は、「」と書きます。
集合にどのような元が属しているかを表すには2種類の方法があります。 「外延的記法がいえんてききほう」と「内包的記法ないほうてききほう」です。
「外延的記法」とは、集合に属する元を列挙する方法です。 例えば、集合に「イヌ」「ネコ」「ウサギ」の元が属しているとき、外延的記法では「イヌネコウサギ」のように書きます。
「内包的記法」とは、元の性質を記す方法です。 例えば、集合にはすべての動物が属しているとき、内包的記法では「は動物」のように書きます。 ここではという記号を使いましたが、好きな記号を使って「記号記号を用いた条件文」と書け、その条件を満たすものをすべて集めた集合という意味になります。
多くの場合、元の数が少なければ外延的記法で表し、元の数が多くて外延的記法では大変になるときは内包的記法で書かれます。

1.2含まれると等しい



次に、集合同士の関係について説明します。 例えば「イヌネコウサギ」「イヌネコ」であるとき、の元はすべての元になっています。 このとき、集合は集合に「ふくまれる」といい「」と書きます。 に含まれない場合は「」と書きます。
「属する()」と「含まれる()」は記号も意味も似ていますが混同しないように注意が必要です。 「属する」は元と集合の関係、「含まれる」は集合同士の関係です。
また、集合と集合の元がすべて一致しているとき、集合と集合は「ひとしい」といい、「」と書きます。 等しくない場合は「」と書きます。 集合の元の並びには順番はなく、また元が重複したときは1つとみなします。 つまり、「イヌネコウサギ」「ウサギネコイヌイヌイヌ」のとき、「」は成り立ちます。
」「」の記号は、元同士の比較の際にも使われます。 元と元が同じものであれば「」、異なれば「」と書かれます。

1.3集合の集合



さて、「集合を元とする集合」というものも考えることができます。 例えば、「イヌ」を元とする集合は「イヌ」でしたが、この集合を元とする集合は「イヌ」となります。
例えば、「集合イヌネコ」「集合イヌ」「集合イヌ」であるとき、「」「」です。 元と集合の関係なのか、集合同士の関係なのかに注意してください。

1.4和集合と積集合



第1話の命題の説明で「または()」と「かつ()」を解説しましたが、集合にもこれと似たものが用意されています。 集合では「または」は「」の記号、「かつ」は「」の記号で表し、集合に対して「」「」のように書きます。
例えば、「甘いもの」を集めた集合が「ハチミツプリングレープフルーツ」と定義され、「酸っぱいもの」を集めた集合が「レモングレープフルーツ」と定義されているとしましょう。 このとき、「甘いもの、または、酸っぱいもの」は「ハチミツプリングレープフルーツレモン」となり、「甘いもの、かつ、酸っぱいもの」は「グレープフルーツ」となります。
つまり、「」とは集合を結合させるもので、「」とは集合の共通部分を抜き出すものと言えます。

1.5空集合



1つも元が存在しない集合を「空集合くうしゅうごう」といい、「」の記号で表します。 例えば、集合に元が1つもないとき「」です。 この記号はギリシャ文字の「ファイ」に似ていますが、別記号です。
」と「」は異なる集合です。 「」は元が1つもない集合ですが、「」は「」を元とする集合です。

2自然数

さて、それでは「」を証明するために、集合を使って「自然数」を定義しましょう。
自然数しぜんすう」とは「」と延々と続く一連の数のことです。 「」を自然数に含めるかどうかは流派によって異なりますが、現代数学では含めることが多いため、ここでも含めることにします。 含めても含めなくても論理的には大差ありません。
自然数全体の集合を定義してみましょう。 の定義は、「」とすれば十分に思えるかもしれません。 しかしこれは、次に「」と続くことをわたしたちが知っているという前提の上に成り立っていますので、厳密な定義とは言えません。 そこで今回は、厳密な自然数の定義として「ペアノの公理」と呼ばれるものを採用することにします。
「ペアノの公理」によると、「自然数」とは図2-1の構造を満たすものをいいます。
  1. 」は自然数である。
  2. 」が自然数ならば、「の次の数」も自然数である。
  3. 」と「」が等しい自然数であるとき、かつそのときに限って、「の次の数」と「の次の数」は等しい自然数である。
  4. 「次の数」が「」であるような自然数は存在しない。
  5. 以上で定めたものだけが自然数である。
図2-1: ペアノの公理
噛み砕くと、「」から出発して、「の次の数は」「の次の数は」のように延々と連ねて、分かれ道やループが無いものを「自然数」と言っています(図2-2)。
自然数
図2-2: 自然数
この図は、先ほどのペアノの公理で定めたことを図示したものです。 自然数が「」と一本道になるように、それ以外のケースを排除しています。
さて、このような「構造」を満たすものはすべて自然数と見なすことにします。 注意すべきは、「自然数」というものが具体的に存在するのではなく、具体的な何かがこのような「構造」になっているときにそれを自然数と呼ぶ点です。 こう捉えることで、様々なものを自然数として扱うことができます。
それでは、集合だけを使って自然数を構築してみましょう。 冒頭で説明した通り、集合は数学の基本的な要素ですので、集合だけで自然数が構築できれば、自然数も数学の要素として扱えるわけです。
例えば、を空集合で表し、ある数に対して次の数を「」で表すと、「」「」「」「」「」となりますが、これはペアノの公理の各条件を満たします。 よってこれは自然数であると言えます。
また、を空集合で表し、ある数に対して次の数を「」で表すと、「」「」「(中略)」「」「」となってペアノの公理を満たすため、これも自然数であると言えます。
このように、いくつもの方法で集合から自然数が構築できます。 具体的にどの方法で自然数を構築したかは重要ではなく、ペアノの公理を満たしていればどの方法でも構いません。 以後、このように構築された自然数を「」という集合で表すことにします。

3公理的集合論

3.1ラッセルのパラドックス



と、ここまである程度直感的に話を進めてきましたが、このように直感的に集合を扱うと、論理的に破綻することが判っています。 その一つの例が、「ラッセルのパラドックス」です。 ラッセルのパラドックスとは以下の通りです。
まず、日本語であるものをすべて集めた集合「日本語」を考えてみます。 このとき「日本語」自身も日本語なので、この集合に属します。 つまり、「日本語イヌネコ日本語」のようにします。
次に、英語であるものをすべて集めた集合「英語」を考えます。 このとき「英語」自身は英語ではないので、この集合には属しません。 つまり、「英語dogcatEnglish」のようにします。
このように考えると、集合とは2つのタイプに分けられ、この「日本語」のように「自分自身が属する集合」と、この「英語」のように「自分自身が属さない集合」が存在することになります。
ここで、「自分自身が属さない集合」をすべて集めた集合を考えてみましょう。 つまり「英語」は「自分自身が属さない集合」でしたので、「自分自身が属さない集合英語」となります。 さてこのとき、この集合には自分自身が属するでしょうか。 すなわち、「自分自身が属さない集合英語自分自身が属さない集合」となるでしょうか。
仮に自分自身が属するとした場合、「自分自身が属さない集合」なのに属しているので矛盾しています。 また仮に自分自身が属さないとした場合、「自分自身が属さない集合」という条件を満たしているので、この集合に属するべきとなって矛盾することになります。
第1話で説明した通り、命題は真か偽かのいずれかである必要があるため、このような問いは命題になりえません。 つまり「自分自身が属さない集合をすべて集めた集合」のような集合を無条件に認めてしまうと、論理的破綻を招くのです。

3.2公理的集合論



そこで、集合を「ものの集まり」のような直感的な定義ではなく、何が集合かを厳密に定めた「公理」によって集合を定義する流れが生まれました。 これは「公理的集合論こうりてきしゅうごうろん」と呼ばれ、直感的なほうは「素朴集合論そぼくしゅうごうろん」と呼ばれます。
公理的集合論は直感から離れて厳密さを追求しているため、当然ながら直感的に解りにくくなっています。 そのため、その内容の詳細は発展編に譲ることにし、基本編ではそこで構築された結果だけを採用することにします。
ただし補足として、公理的集合論では現在「ZFCぜっとえふしー公理系こうりけい」と呼ばれる公理の集まりが主流になっていることを記しておきます。 ZFCの公理系を使うと、ペアノの公理を満たす自然数が集合で構築できます。 本講座では以後、ZFCの公理系の上で話を進めます。

4加算の公理

それでは、いよいよ最後に「」を証明してみましょう。 ここまでで定義した自然数に対して、図4-1の公理を追加します。

が自然数であるとき、

ただし自然数に対し「」とは、「の次の数」を表す。

図4-1: 加算の公理
これを、「加算かさん公理こうり」といいます。 この公理を使うと「」が証明できます。 図4-2の通りです。
1+1=2の証明
図4-2: 1+1=2の証明
加算の公理を機械的に適用していくだけで、「」から「」が導出できています。 同様に「」「」なども証明できますので試してみてください。
今回は、集合を使って自然数を定義し、加算の公理を用いて「」を証明しました。 次回は、自然数に負の数を含めた「整数」をお話します!
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